遠い記憶*far memory (ℝ15)
あのね!
第1話⁂過去⁂
私は別名富山湾の神秘と呼ばれる、蜃気楼の町魚津市に1955年に生を受けた。
魚津は江戸時代以前から蜃気楼の名所として知られ、大気中で光が屈折し虚像が見える自然現象。
光と風が織りなす自然の芸術ともいえる蜃気楼は、昔も今も多くの人々を魅了し続けて、二度と同じ蜃気楼は見られないとまでいわれている。
そんな神秘の町魚津の山あいY町に育ったお寺の娘で名前は富士小百合。
子供の頃に思いを馳せる時、ふっと思い出すお寺の境内に毎月のように現れる片足の無いおじさん。
不思議に思い母に訪ねた事が有った。
「あのおじちゃんなんで足が無いの?」
「それはね、お国の為に頑張ってくれた傷痍軍人さんで、戦争で足が無くなったんだヨ!」
1960年小百合5歳の事である。
何故あのおじちゃんはお寺の境内に来ていたのか謎である。
一体何しに来ていたのだろう?
境内の椅子にすわり神仏に手を合わせるでもなく、只ぼ~んやり座っているだけ。
だがある日を境にピタリと現れなくなった。
そこには???
◆▽◆▽◆
月日は流れ中学生になった小百合。
中学は全校生徒200人ほどの小さな片田舎の中学に通った。
その中学校に通う子らは檀家の子供達が殆どで、主に農家の子供達だった
その中で私はお寺の娘なので、自然と周りには取り巻きが出来て調子に乗り、この世の中、自分中心で回っているを、絵に描いたような自己中女子だった。
下駄箱の靴も手下に目と顎で指図していた。
お昼休憩時間売店のパン買いも、自分で買いに行ったことなど一度もない。
「ハイ買って来て!」
とんでもない思い上がり女子。
だが、ある日この自己中女子小百合は、ある転校生によって魚津山中学の女王様の座からあえなく転落。
富山県でも指折りの建設会社、近藤建設社長のお嬢様で近藤江梨子と名乗る新入生が転校して来た。
本宅は富山市内に有るらしいのだが、この魚津に巨大ス-パ-が出来るらしく別宅に引っ越して来たのだ。
江梨子ちゃんは、お嬢様で凛とした一見すると近寄りがたい女子に映るのだが、弱い立場の子に手を差し伸べる何とも優しい子。
江梨子ちゃんの出現により、私のような思い上がり女子の周りには誰もいなくなった。
当然の事だ。
友達を顎でこき使い、それが当たり前と有頂天になって居た天罰が下ったのだ。
文武両道に秀でた、美人でスポ-ツ万能な非の打ちどころのない江梨子ちゃん。
それに比べて私は、女王様転落で地に落ちて、惰性で学園生活を送っていた。
そんなある日、一昔前は老人ホ-ムを耳にする事が余りなかったと思うが、足腰が悪くなったので仕方なく老人ホ-ムに入所しているおばあちゃんのところに、母に誘われて会いに行った。
魚津の海が一望できる高台に建っているこの老人ホーム〈蜃気楼〉は、人里離れた海辺に立って居る辺鄙な場所だが、同じ蜃気楼は二度と見られないとまで言われている蜃気楼を、いつも拝める最高のロケーションに立っている老人ホ-ム。
中学3年生になった小百合はこの老人ホ-ムにはチョクチョク顔を出している。
それは大好きなお祖母ちゃんに会えるからだ。
また、その隣には人々から忘れ去られたようにひっそりと、精神病院が立って居る。
だが、その時我が目を疑った。
一体どういう事?
あんなにも非の打ちどころのない江梨子ちゃんを、偶然にも老人ホ-ムの窓から見てしまった。
それは精神病院から出て来た江梨子ちゃんらしき女の子。
まさか?絶対に見間違いだ!
そう思い母に「学校の友達を見掛けたからチョット話してくるね」と言って跡を付けた。
すると江梨子ちゃんに似た女の子は、タクシーに乗り魚津の繫華街で降りて、雑居ビルの屋上に上がって行った。
そこで…小百合もエレベーターで上がり屋上の江梨子ちゃんの様子を、影からこっそりと見ていた。
アッ!やっぱり江梨子ちゃんだ。一体こんな所で何をしているのか?
すると、江梨子ちゃんが数人の女の子に、何か威圧感のある口ぶりでまくし立てている。
「テメエラ————ッ!金をくすねて来いって言ってたじゃないか!何やってんだヨこのアマが————ッ!」
それだけで済むかのと思いきや?
江梨子ちゃんの指図で、数人が2人の女子に殴り掛かりボコンボコンにされている。
一体この江梨子はどういう精神状態の女子なのだろうか?
学校での弱きを助け強きをくじく完璧なふるまい。
優しさの塊のお嬢様がどうしたと言うのか?
更には精神病院にどんな用事が有ったのか?
謎が深まるばかり?
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