19 【手紙】


 亜純へ


 手紙を書くって約束をしたの、覚えている?

 約束を果たすためと言えば聞こえは良いけれど、そんなの建前だね。私が書いて残したいと思ったから、こうして手紙を書きました。

 この手紙を手元に置いておくことに重圧を感じるのであれば、燃やして欲しい。ただ一度読んでくれるだけで、私は嬉しいから。

 私みたいな人間と、共に居てくれてありがとう。

 血まみれで立って居た不審者に、ただ寄り添ってくれてありがとう。

 悩ませて、苦しませてごめんなさい。

 私の最後のわがままでした。最後に、あなたに、亜純に傍に居てほしいと望んでしまった。

 まっとうに生きることに疲れて、とっとと死ねば良かったのに、誰にも自分を残せないことが悔しいと思っていたの。

 でも惰性で生きるのも限界で、もう死のうと決めた時にあなたに出会った。

 こんな天邪鬼な人間に親身になるなんて、亜純はお人好しのバカよ。褒められたものじゃない。本当は、もっと見せつけるように死んでやろうと思ってたのに。脳裏に焼き付いて離れないってトラウマにしてやろうと思ったのに。当てつけみたく、汚く死んで見せてやろうって思ってたのに。そうしたら、私の心は満足して死ねるなぁって思っていたのに。

 そんな吐き気がするような事を思っていたのよ。最低でしょう、私。

 でも、結局出来なかった。亜純は私が欲しいと言葉をくれた。私と、私の家族の記憶を、一番望んだ場所から見てくれた。

 絆されてしまったみたい。それならそれでいいと思ってしまった。

 亜純は罪深い女だよ。なんてね、もうこれを読んでいる時には私は死んでいるだろうけど。

 支離滅裂でごめんなさい。ただ、これは包み隠さない私の本心。飾らない私のままの言葉。

 あぁ、伝え忘れるところだった。同封した連絡先なんだけれど、いずれ連絡が来ると思うから、その時は私が使い切れなかったお金をあなたに受け取って欲しい。欲しがる身内も居ないから遠慮しないで、慰謝料とでも思って受け取ってね。

 なんだかまとまりのない手紙になっちゃった。こんなに訳の分からないことを書いてしまったけど、私はあなたに会えて良かったと思ってる。それだけは知っておいて。


 さようなら、私の亜純。



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