2人の魔王の英雄譚
宵桜
第1話 追放
「カンナお前をパーティーから追放する。」
魔王を直前に控えたタイミングで、リーダーであるアーサーに突然追放を言い渡された。
「はぁ!?いきなり何言い出すんだよ!魔王を目前に控えて追放って正気なのか!?」
あまりに突然の事で混乱しながらアーサーに問いただした。
「もちろん正気だ。カンナ、君もわかってるだろ?これから先の戦いに君は足でまといなんだ。僕達も君を庇いながら進むのは厳しいんだよ。」
わかっている、自分の実力が足りていないことなんて。それでもやってきた。メンバーを庇い、足りない一手を補ったりとパーティーに貢献してきたつもりだった。
「それにこれはパーティー全体の意思だ。アリシアも、ガンテツも、エレナもこれに賛同している。」
「アイツらもなのか・・・クソっ!わかったよ!出ていきゃいいんだろ!」
「理解が早くて助かるよ。あぁ装備は持って行って構わない。」
俺は荷物をまとめて出ていった。
――カンナが出ていってしばらくした後
「アーサーあれで良かったのか?もう少し言い方があったんじゃないのか?」
ガンテツが聞いてきた。
「あぁ、あれでいいんだ。おそらく僕達はギリギリの戦いをすることになると思う。そうなれば彼は僕達を守るだろ。それじゃあダメなんだ。僕達は彼に助けられた、それも数えられないほどに。だから今度は僕達が彼を守る番だ。」
「だから追放か。多分あいつは恨むぞ。」
「いいさ、それくらい。彼が生きていてくれれば。」
「はぁ、わかった。この話はこれで終いだ。そろそろ着くぞ。」
「そうだな。3人とも準備はいいか?」
「「「おう(はい)!」」」
「これが僕達の最後の戦いだ!」
そう言って僕達は魔王のいる玉座へと向かった。
――一方、森の中
「クソっ!なんで今になって追放なんだよ!足でまといならもっと早くすればよかっただろ!」
俺は未だに怒りが収まらずにいた。だが不意に引っかかることがあることに気づいた。
「待て。今になって?どうしてだ?装備を回収しなかった事もおかしい。それにパーティーの意思ならなぜガンテツ達がいなかった?あのセリフが本心ではない?だったら――」
だったらアーサーは自分を生かすために追放したことになる。そもそもがアーサーの性格上足でまといだからと言って追放することはない。
「あの馬鹿ども!」
アーサーの隠れた本心に気づいた俺は来た道を全速力で戻った。
途中魔族に遭遇しかけたが、十八番となった気配遮断で乗り切りながら、魔王のいる所まで来ることができた。
「はぁ、はぁ。ここか。ッチ!既に始まってやがる。このまま入れば気づかれる、どこかに入れる場所は・・・」
周りを見渡すと、上の方にあった。
「あそこからなら。」
唯一使える身体強化を使い、部屋に入ると、アーサーが魔王の持った剣に貫かれようとしていた。
「あの馬鹿っ!」
気づくと身体が動いていた。そして――
――魔王が強力なのはわかっていた、それも今の自分たちにとって勝ち目が薄い戦いになることも。
でもやるしか無かった。戦いが長引けばこちらに不利な状況になってしまうから。
その結果、僕は魔王に殺されようとしていた。
もう防ぐ体力も残ってない。仲間たちも死んではいないが、動けないだろう。だけど、彼なら僕達がいなくなってもどうにかすることができるだろう。これまで僕達のパーティーを支えて来てくれた彼なら。
そう思いながら貫かれるのを待っていると、影が僕と剣の間に入ってきた。
その影は、
「なに、やってんだよ!アーサー!」
――俺は身を呈して魔王の剣を止めた。魔剣なのか内側から焼かれる感覚があるが、今はそれどころではない。
「なに、やってんだよ!アーサー!」
歯を食いしばりながら、リーダーにげきを飛ばした。
「てめぇが、勇者のてめぇが戦う事を諦めてんじゃねぇよ!」
「カンナ!?どうしてここに!?」
「うるせぇ!下手な演技で追い出そうとしやがって!」
「人間!どこから入ってきた!」
魔王が何が言っている。ていうか、こいつ女だったのか。
「どこからでもいいだろ!それよりてめぇはここで俺と死ぬんだよ!」
そう言いながら、魔王に近づく。その際魔剣がより深く刺さるが、気にしない。どうせ助からないんだ。だったら道連れにしてやる。
「クソっ!離せ!」
魔王に抱き着いた状態で、暴れ出すが離さない。だが体力的にも限界が近いだから、背中から剣を抜き――
自分諸共魔王を貫いた。
「ガッ!貴様一体何を!」
魔王が何が言ってるが上手く聞き取れない。そろそろほんとに限界かもしれない。
「アーサー!俺諸共魔王に最大の一撃を叩き込め!」
「なっ!そんなことをすれば君も一緒に――」
「うるせぇ!こっちはもう耳が聞こえなくなってんだよ!こうしてる間にも限界なんだよ!グダグダ言ってないで早くしろ!魔王を倒すのが勇者なんだろ?」
そろそろ視界も暗くなってきた。いよいよ死が近くなってきている。
「だからよ、最後くらいカッコよく締めさせてくれよ。こんな俺でも活躍できたってことを証明させてくれよ。」
「そんなことさせんぞ!」
魔王が逃れようと暴れ出すが、刺さってる剣をどうにかしない限り抜け出すことは出来ない。けどそれもいつまで続くか分からない。だから最後に。
「早くしろ!アーサー!!」
「わかった。」
聞こえてないが口の動きでそう言ってるのがわかった。そして――
『エクスカリバー!!』
聖剣のリミッターを解除した、最大の一撃が俺と魔王を包んだ。
「このままでは終わらんぞ!我を倒したとしても、また新たな魔王が――」
魔王は何かを言いかけて消えていった。そして俺も一撃を放ったアーサーの顔を見て。
「なんて顔してんだよ、リーダー。お前は正しいことをしたんだ誇れよ。」
そう言って光の奔流に消えていった。
――後日、王都には勇者パーティーが魔王を倒したと新聞に乗った。そこにはパーティーの名前が載っていたが、命をとして魔王を抑えた者の名前は載っていなかった。
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