第10話 いざ本殿へ
本殿の扉から漏れ出す臭いを浴びても、翠羽は表情を一つも変えなかった。
「なるほど。これはなかなかすごいことになってるわね」
左奥に積まれたゴミ袋の山の近くを歩いて回り、右側の家具類を見て入口で待つハシルヒメと珠のもとへと戻ってきた。
「ゴミの量は多いけれど、ある程度分別されているみたいだから、今日中に片付きそうよ」
「お、やった! じゃあすぐに始めよう! はいよろしく!」
ハシルヒメは珠のお尻を叩いた。
「や、やめてよ! やるけど、あんたは手伝わないつもり?」
「うーん。さすがにちょっとはやろうかな。翠羽がいるのは今日だけだしね」
ハシルヒメは翠羽に向かってサムズアップしてウインクした。翠羽は微笑んで返す。
「わたしは仕事で来ているのだから、見ていてるだけでも大丈夫よ」
「だってよ珠ちん」
ハシルヒメが腰に手を当てて胸を張った。
「わたしは現場監督ってことだね」
「知識のない人が現場監督やってどうするの。翠羽さんに指示を出してもらおう。絶対にそっちの方が早いし確実だから」
珠が「おねがいします」と頭を下げると、翠羽は珠の肩に手を置いて頭を上げさせた。
「そんな、お客様に指示を出すなんて、そんなことはできないわ。けれど何をしているのかわからないと不安だと思うので、説明だけするわね」
翠羽はゴミ袋の山を指さした。
「まずここに必要なのは分別ね。特にアルミ缶は買い取ってくれる場所があるから、缶はアルミとスチールはしっかりと分けたほうがいいわ」
「え? お金になるの? じゃあわたしやる!」
ハシルヒメが手を上げた。
「お金になるといってもキロ当たり百円前後だから、コスパがいいとは言えないわね。金額だけなら家具類を綺麗にしてリサイクルショップに持って行った方が高くなると思うわ」
「おぉ! それもやろう! 意外とプラスになっちゃったりして」
ハシルヒメが目を輝かせて家具の積み上げてあるところへと移動した。翠羽は急いでその後を追い、両肩に手を置いてハシルヒメを止める。
「期待させてしまって申し訳ないのだけれど、ほとんどのものは粗大ごみとして処分しないといけないし、家電類は買い取ってもらうのは絶望的なの。それを処分するのにもお金がかかるから、マイナスにならなければ御の字といった感じよ。よほど高い物があれば別だけれど」
「大丈夫! こんだけ積まれてるんだし、一個くらい高いのあるでしょ!」
ハシルヒメは積み上がった家具と向き合った。その前に珠が立つ。
「あんた物の値段とかわかるの?」
「そこはフィーリングで」
「絶対に任せちゃいけないやつじゃん。そこは翠羽さんにお願いして、わたしたちはゴミの分別とかの簡単な作業をしたほうがいいよ」
珠が翠羽に目を向けると、翠羽はスマホを取り出した。
「わたしも家具の値段とかには詳しいわけではないから、知り合いのお店の人を呼ぶわね。全部を綺麗にすると時間がかかるから、値段のつくものだけ掃除をしましょう」
「なるほど。確かにそうしたほうが効率がいいかも」
スマホをいじる指をじっと見ていた珠の肩を、ハシルヒメが指先でつついた。
「ねぇ珠ちん。わたし気づいちゃったんだけど」
「なに? どうしたの?」
「一番高いのって付喪神のついた箒なのでは? 赤字だったらワンチャン――」
珠がハシルヒメの肩を左手でがっちりと掴んで固定し、右に握った拳をハシルヒメの柔らかい頬に押し当てた。
「思いっきり殴ってもいいかな?」
「じょ、冗談だって! 別に売ろうとか言ってないじゃん! やめてぇ!」
その様子を見て翠羽は笑った。
「仲良しでいいわね」
珠は苦笑いを返すことしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます