第44話
「えと……いまいち状況が把握出来ないんだけど。もしかすると、あの綾って人は……詩菜だったりするの?」
フウが、二人から視線を外し、ルフレのほうに振り返って聞いてみる。
「そうよ。詩菜ちゃん頑張ったみたいね」
ルフレがとても嬉しそうに笑った。
「時間軸がおかしくない? 優和より年上だよ?」
もう一度、疑問を口にする。
「そうね。ちょっとばかり、頑張りすぎちゃったのかな?」
やっぱり、ルフレは笑顔で答える。
「そういう問題なの? ていうか、詩菜が成仏してからまだ一週間もたってないよ」
「うーーんと、説明するのはちょっと難しいんだけど、時間という概念にとらわれて時を線として捉えがちなんだけど、実際は点なの。ようは全ては同時に起きているってこと。卵が先か鶏が先かじゃなくて、同時に存在が始まった。あ、簡単に言うと、小説みたいな感じね。本って、誰かが読む前にすでに物語は始めから最後まで完成しているでしょ。だけど始めから順番に読むことで、そこに時間という概念が生まれる。そういうわけだから実際は未来も過去もない。ということは未来から過去へと生まれ変わることも不可能ではない。でもそれは不可能ではないだけでほとんど不可能なこと……それでも詩菜ちゃんはそれをやってのけた。まあ、とにかく綾ちゃんは詩菜ちゃんの生まれ変わりなのよ」
「そうなんだ! で、綾には詩菜の記憶もあるの?」
「そうみたいね。二日前に、ここに二人を引っ張ってきて再会させてみたら、その時に詩菜ちゃんだった記憶が甦ったみたい」
「何だかよくわかんないけど、とにかく詩菜も優和も幸せになれて最高のハッピーエンドってことだろ?」
興奮気味にリースが言った。嬉しすぎて、いてもたってもいられない――そんな表情をしている。
「そうね。私たちの想像を遥かに上回ったハッピーエンドね」
その言葉を聞いたとき、フウの視界が滲んだ。涙が溢れてくる。
今まで、多くの数え切れないほどの人々に幸せを与えてきた。そして幸せにするたびに自分も幸せになれた。
それでも初めてだった。こんなに嬉しいのは……涙が溢れるくらいに、叫びたいほどに幸せが溢れてくるのは……
今までこんなにも満たされた気持ちがあるなんて知らなかった。
「やった~~」
サンが叫びながらフウに抱きついてくる。サンも泣いていた。
その横では、リースがポチと手を取り合って嬉しそうにクルクルと回っている。ポチは回りながら高笑いを上げて、その度にむせていた。
「でも一番のハッピーエンドは私たちよ。二人のあんなステキな笑顔を見ることが出来て、こんなにも満たされたんだから」
そう言ったルフレの頬にも涙が伝っている。
『うん』
みんなが笑顔で頷く。
フウも心からそう思うことが出来た。
自分が天使であってよかったと思う。二人を幸せに出来てよかったと思う。
今までの人生での全ての出来事を肯定したくなるくらいに、今は幸せに溢れている。
そんな幸せに包まれながら、フウはもう一度、綾と優和を眺めた。
二人は幸せそうに笑っている。
心を共感させる必要すらないほどに、その笑顔からは幸せが溢れている。
そして、空を仰ぐ。
滲んだ涙越しに見上げる空はキラキラと輝いている。
今――ここで見上げる空。フウとサンとルフレとリースとポチの上にある空。
その空は、今まで見たどんな空よりも美しく澄んだ青い空だった……
そんな空を見上げたまま、リースがポツリとこぼす。
「それにしても、なんか都合よすぎなんじゃない?」
「そんなことないわ」
ルフレが答える。
「だって、もう何でもありな感じじゃん」
「それはそうよ。だってこの世界には全知全能に近い力を持った神様がいて、その神様がみんなの幸せを心から願ってるんですもの」
そう答えて、ルフレは青い空の下、少し誇らしげに笑った。
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