第42話



「う~~む。なんて言うか。びっくりするくらい幸せそうだね」

 笑顔で綾を眺めながらフウが言う。

「うん。胸焼けがしそう」

 そう言った、サンも笑顔。

「で、ここが目的地みたいだけど、俺様たちはどうすればいいの?」

「えと、先輩はいないみたい……どうしよっか?」

 キョロキョロと辺りを見回してみるが、ルフレの姿は見当たらない。

「綾と彼との約束の時間もまだまだみたいだし、私たちも待ってればいいんじゃない?」

「そうだね。あー、それより、登場以来ポチはずっと黙ったまんまだけどどうしたの?」

 ずっと黙ったままリースの横に浮いているポチを見つめながらフウは言った。

「ええっ、そんなことありませんですことよ。別に、決して、この話し方がめんどくさいので黙っていたりするわけではありませんですのよ」

「あ……そうなんだ」

「え、だから違いますのよ。おほ、おーほっほっほ、げふぉっ。ぐぅー! 痛い……舌かんだですよ」

 ポチの目に涙が滲む。

 ――彼が来た!

 不意に、綾と共有した心に想いが溢れてくる。

 三人と一匹は綾のほうに視線をやった。

 満面の笑みを浮かべて、綾が手を振っている。綾が視線を送る先……そこに彼がいた。

 彼は綾の下に笑顔で駆け寄る。

「ごめん。待った?」

「ううん。私も今来たところ」

 そんなお約束の言葉を口にしながら、綾は嬉しそうに目を細め微笑んだ。

「…………!」

「えっ……」

 そんな綾と彼の姿に三人と一匹は絶句していた。

 それは在り得ない、決して在ってはならない光景だった。

 綾の恋人である彼……その人を知っている。

 彼の名は鈴木優和。先日、ちょうど一週間くらい前にフウたちが幸せを送った相手。

 その彼が今、幸せそうに綾に微笑みかけている。それは天使であるフウとサンにとっては本来喜ぶべきことであったかもしれない。でもそれは二人には出来なかった。

「あいつ……不幸にしよう」

「私も賛成でしてよ」

 リースとポチも大変ご立腹だ。

「ごめーーん。待った?」

 そんな三人と一匹の耳に明るい声が響く。

 今度のそのセリフは、フウたちに掛けられた声。

 振り返ると、ルフレがいた。

「先輩ーーー! あれっ!」

 サンが綾たちのほうを指差して叫んだ。

「うん。二人共とても幸せそう。すごく素敵な笑顔を浮かべてる」

 二人の笑顔に釣られるようにして、ルフレもまた幸せそうに微笑む。

「そおじゃなくて! あいつ優和だよ。浮気だぞ」

 リースは空中で地団太を踏んでいる。

「フフフ。そんなことより二人の会話をよく聞いてみなさい」

 ルフレに言われて、フウたちは二人の会話に再び耳を傾ける。本当は優和が詩菜以外の誰かに愛を囁くところなんて、見たくも聞きたくもない。だがルフレに言われたので仕方なく。


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