第28話



 詩菜は今日も、優和が帰った後、一人で考えていた。

 今日も楽しかった。

 始めのうちは、恥ずかしくて優和の顔もろくに直視出来なかったが、ハンバーガーを食べ始めた頃にはなんとか慣れることが出来た。

 本当に楽しかった。

 初めて食べたハンバーガーやポテトもおいしかったが、何よりも優和と一緒にいられることが嬉しかった。

 こんな毎日が永遠に続いてくれたらいいと、詩菜は思う……

「ぁっ…………」

 今、詩菜の頭の中に浮かんだ想い。その想いの意味に気が付いてしまった。

 どうしよう……死にたくないかもしれない。


 シ ニ タ ク ナ イ カ モ シ レ ナ イ


 その言葉が頭に過ぎった瞬間、背筋が凍るような恐怖が生まれた。

 そう、詩菜は死ぬ。

 人はいつか死ぬ。それは生まれると共に背負うことになる宿命。誰もが明日、いや次の瞬間にでも死んでしまう可能性をはらんでいる。

 でも、詩菜のそれは違う。

 詩菜の余命は長くても後、半年程度。それは医師から告げられた事実。

 だから、詩菜は全てを諦めていた。

 世界を嘆き、自分を呪うことによって、死を受け入れていた。むしろ死に救いを見出してさえいた。

 しかし、今。優和を好きになってしまった今。諦められなくなったかもしれない。

 詩菜の世界。この地獄のような世界に、歌が満ちてしまった。

 地獄の中で幸せを見出してしまった。

 だから今……詩菜は以前よりもっと不幸になった。以前よりずっと自分を呪った。以前よりさらに世界を怨んだ。

 しかし、その地獄に幸せを、愛を歌う歌が絶えることはない。

 詩菜は思う。

 ……どうしよう。

 詩菜の心の中をその言葉が埋め尽くしていた。


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