第10話



「いや……本気で暴力はよくないと思うんだ」

 そう言ったリースは、勇樹の頭の上、フウの隣に座っている。頭に出来た大きなたんこぶを両手でそっと摩りながら、ちょっと泣いていた。

「うぅぅ……ポチ、穴だらけです。いっぱい中身出て、瀕死ですよ。」

 ポチはぐったりとして、リースの肩にのしかかっている。その体にはたくさんの穴が開いて、そこから白い綿のようなものがはみ出してしまっていた。

「うーーん。二対二になってもたいして戦況に変化はなかったね」

 サンは満面の笑み。

「うん。期待の新戦力ポチはヨワヨワだったからね」

 言いながら、フウはリースの肩に乗っているポチをつっついいてみる。触り心地は完全にぬいぐるみのそれと変わらない。

「だって、ポチは頭脳労働担当ですもん。肉体労働は苦手です。得意なポジションは名参謀ですよ」

「じゃあ、名参謀。次の作戦は?」

 リースの言葉に、少しだけ考えてからポチは答える。

「力による対決じゃなくて、悪魔と天使らしく人の心を動かす勝負にしたらどうです? 誘惑対応援みたいな感じです。暴力はよくないです。だって痛いですよ」

 言って、ポチは鼻をすするような音を出した。しかし、ポチに鼻はない……

「おっ……まともな意見」

 と、フウ。

「そうですよ。ポチはやったら出来る子なのです」

 ポチは得意げに言う。

「じゃあ、いいよ。そうしましょう。私も弱い者虐めはよくないと思うしね」

「ぬぅ、弱い者言うなーー!」

 勇樹の頭の上でリースはちょっと暴れる。座ったままで地団駄踏んでいた。

「なら、力で雌雄を決しましょうか? 私はそれでもいいよー」

 サンは笑顔で挑発する。

「……だから~~、力では何も解決しないんだよ。何でも力で無理やり解決しようとするところはサンの悪いところだぞ」

 腕を組んで、ちょっと偉そうに言って誤魔化そうとしてみるリース。

「あーら、弱っちい、リースの言い訳かなー」

「弱っちくなんかないわい! 一対一なら絶対負けないもん」

「そーかーなー? 負けると思うけどな~。リースはヨワヨワだから」

「むき~~! やんのか? やんぞ! やったるぞっ!」

「リース様。もー喧嘩はその辺にしといて次の作戦にいくです」

 ポチが言い合いを続けるリースとサンの間にふわふわと割ってはいる。

「うっさい。ポチは黙ってろ」

 言って、リースはポチを叩いて吹き飛ばした。

「そうよ。ぬいぐるみは黙ってて」

 サンも怒鳴る。

「あれれ? なんか、ポチが叩かれたです。 怒鳴られたですよ?」

 ポチがフウの横にふわふわと飛んできて、不思議そうに声を上げた。そんなわけで、今度はフウが二人の仲裁を試みる。

「ほら、もうその辺にして。ポチの言うように、誘惑と応援の対決、とにかくやってみようよ。おもしろそうじゃん。でも、リースがどんなに誘惑したところで、僕たちが誘惑されないように勇樹を正しい道へと導いて見せるんだけどね」

 フウのその言葉で簡単に二人の言い合いが終わった。

 そしてリースはフウのほうにむいて、不敵な笑みを浮かべる。

「ふっふっふっ。それはどうかな。今度こそリース様の力見せてやる。うん、そうだな。とりあえずは、誘惑のための情報でも引き出してみるか」

 そう言って、リースは考える。心を勇樹と繋いで。

 今したいこと……


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