「青い空の作り方」

鈴木りんご

プロローグ「青い空の作り方」

第1話


 ねぇ、知っていた?

 僕たちが今もエデンの園に在ること

 誰かが知恵の実を食べたから

 頭が良くなって……

 より大きな幸せを想像できるようになって……

 今ある幸せに満足できなくなって……

 楽園を楽園と感じられなくなっただけなんだ


 ほら、目をよく開いて見てみよう


 ただ空を見上げるだけで

 僕たちは幸せになれるんだ


 だってそこには

 鮮やかな青空がある

 雄大な雲がある

 美しい星の海がある


 ただ辺りを見回すだけで

 僕たちは幸せになれるんだ


 だってそこには

 優しい家族がいる

 楽しい友達がいる

 愛しい恋人がいる


 よく考えてみて

 これ以上の幸せなんてある?

 これ以上に何か必要なものなんてある?


 ねっ

 僕たちは今もエデンの園に在る





プロローグ  「青い空の作り方」




 空を見上げていた――

 青く澄んだ、視界の最果てまでを覆いつくす空。美しく、優しく、温かく……見上げるだけで、空は幸せな気持ちで心を満たしてくれる。

「やっぱり、空が一番だよね。花や緑や海、世界はたくさんの幸せで溢れてる。その中でも空が断トツで一番だ」

「そうだね。私も空が一番好きだなー。朝の青白い感じもいいし、昼間の真っ青な空に太陽のコラボレーションなんて完璧。雲のアクセントだって素敵だし、夕焼けも大好き。あ~! 夜空もあるよー」

「うん。空は空のままなのに、たくさんの幸せを持ってる。空は神様から人間への一番の贈り物だよ」

「だねっ。人間はいいなぁ。いつだって、ただ……空を見上げるだけで幸せになれる」

 真っ青な空の中にぽつんと浮かぶ、小さな白い雲……

 その雲の上に二人は横になっていた。

 まだ天使見習のフウとサン。

 二人は雲からはみ出した足をぶらぶらとさせながら、青い空を眺めていた。

「さぁて、今日もそろそろ、幸せの押し売りに行くとしましょうか」

 ひょいっと、勢いよく上半身を起こしながら、フウが言う。

「そうだね。みんなにも教えてあげましょう。青い空の作り方」

 言いながら、サンも体を起した。

「青い空の作り方?」

 フウは問う。それはどこか聞き覚えのある言葉だった。

「そう! 青い空の作り方。幸せなときにね、眺める青い空はすんごい綺麗なの。そんな空を眺めていると、またそれだけで幸せで……幸せの無限ループ状態に陥ってしまうの。ちなみに私はこの現象を青い空、幸せスパイラルと命名しています。だから、少しでも多くの人間に教えてあげたいの。そんな、青い空の作り方を」

 そう言って、サンは嬉しそうに微笑んだ。

「おっけぇい! じゃあ、僕が教えて差し上げましょう。人間たちに、最高に美しい青い空の作り方をね」

 フウも目を細めて笑顔でそう言うと、サンに向かって手を差し伸べる。

 フウの右手、サンの左手が互いの手を強く握り合う。

 そして二人は翼を広げた。フウの左肩の羽、サンの右肩の羽。

 片翼の二人の見習い天使は翼をはためかせ、大好きな空へと身を投げる。

 みんなを幸せにするために。

 みんなに青い空の作り方を教えるために……



 しかし二人は知らない。いや……覚えていない。

 二人が今、翼を広げて空を行く本当の理由。

 それが誰でもなく、本当は自分たちの願いであることを。

 みんなの幸せのためではない。みんなを幸せにしたいと願う自分自身の想いためであることを。

 そのきらめく欲望こそ、最高に綺麗な空を生み出すための一番の材料であることを。




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