第239話 変わらず無愛想なドワーフ

「最年少で街の代表になったことで、少し話をしてほしいと」

「それはすごい」


 入学資格は12歳から15歳で三年間通う学校だったはず。

 基本三ヶ国のエリートが集まるため、卒業後の進路も確約されていると聞く。

 ただし、入学も卒業するのも難しく、学園に入れても毎年何人かは退学になってしまうらしい。

 そして優秀であれば飛び級制度で、早く卒業することも出来る。

 何故俺がこんなに詳しいかだって?

 実は身近にいる人物が、過去にブレイヴ学園に通っていたからだ。

 ちなみにそれはもちろんエミリアとサーシャのことだ。

 圧倒的な成績を修めて卒業したと聞いている。

 まああの二人なら納得だな。むしろやり過ぎていないか心配だ。


「そのため、近々このズーリエを離れなければなりません」

「そうなんだ。実は俺も――」


 俺はドルドランドで起きた出来事をルナさんとイリスちゃんに話す。


「えっ?」

「リックお兄さん帝国に行っちゃうの!」

「うん。たぶんね」

「じゃあこれから会うことも⋯⋯」

「出来るよ。たまにここにも戻ってくるから」

「本当ですか? 良かったです」


 皇帝陛下が


「⋯⋯リックさんは⋯⋯いえ、もうリック様とお呼びしないといけませんね」

「いや、今までどおりでお願いします」

「ですが⋯⋯」

「ルナさんとは立場を越えた親しい仲だと思っているから」


 同じ異世界からきた仲だしね。


「わかりました。これからもその⋯⋯よろしくお願いします」

「うん。よろしくね」


 良かった。これでルナさんとはこれまでと同じ関係でいられる。


「リックさん。それでは私は仕事があるので失礼します」

「私もお家帰りますね」

「イリスちゃんまたね。ルナさんはまた後で」


 そして俺は二人と別れ、ドワクさんの元へと向かう。


「おはようございます」


 武器屋ドワクに到着した俺は、恐る恐るドアを開ける。

 ドアが開いたからもう開店してるよな?

 まだ朝の早い時間ということで、俺は慎重に店の中に入った。


「ドワクさ~ん。いらっしゃいますか?」

「いるぞ。そんなこそこそしないで堂々と入ったらいい」

「あっ⋯⋯はい」


 カウンターからドワクさんの声が聞こえてきた。

 び、びっくりした。

 いるなら少しは気配を出して欲しい。

 こんなんじゃお客さんは驚いて帰ってしまうぞ。

 まあ有象無象の人達に武器を売りたくないドワクさんにとっては、望む展開ではあると思うけど。


「久しぶりじゃな」

「お久しぶりです」

「新しい武器でも探しにきたのか?」

「いえ、今日は別に用事がありまして」

「ほう⋯⋯お主からの頼み事か。面白そうじゃな」


 ドワクさんはニヤリと笑みを浮かべる。そんなに嬉しそうにされても困る。

 武器以外を作ってくれなんて言ったら怒らないか心配だ。


「実はこれを作ることができるか聞きたくて」

「作ることができるか⋯⋯じゃと? わしも舐められたものじゃな」


 やばい⋯⋯言い方を間違えた。

 どうやらドワクさんのプライドを刺激してしまったようだ。


「お主の作って欲しいものが何か言ってみろ」


 いや、むしろプライドを刺激したことで、やる気なってくれたようにも見える。これはチャンスだな。


「簡単に作れるものじゃなくて。ドワクさんでも作れるかどうか⋯⋯畑違いかもしれませんし」

「わしに作れぬものなどない! どんなものを見せられても驚きはせぬ」

「わかりました。ではこちらを作って頂きたいのですが」


 俺は異空間から予め創造魔法で創っておいた、単式の蒸留機を取り出す。


「ななな、なんじゃこれは!!」


 あれ? 驚かないって言ってたのに滅茶苦茶驚いてないか?

 こんなに慌てふためいているドワクさんは初めてだ。


「このような物は見たこともない! いや、それよりこんなものどこから出したんじゃ!!」


 どうやらドワクさんは、異空間から蒸留機を出したことに驚いたようだ。

 この世界には異空間収納の魔法などないから、当然といえば当然か。


「これは⋯⋯他の空間に置いていた物を魔法で取り出しました」

「そのような魔法があるのか!? さすがはわしが見込んだだけはある」


 カゼナギの剣を託された時からなんとなくわかっていけど、改めてドワクさんの口から褒められると嬉しいな。


「これをいくつか作って欲しいのですが、可能でしょうか?」

「わしを誰だと思っている。任せておけ!」

「よろしくお願いします」


 こうしてドワクさんに蒸留機を作ってもらうこととなり、俺は次の目的地である役所へと向かうのであった。

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