第238話 久々の再会
リビングでの話が終わった後、俺は寝るために自室へと戻る。
ちなみにサーシャもうちに泊まることとなり、ノノちゃんと一緒に寝ることになった。
一応水竜の腕輪のおかげで、昨日ノノちゃんは悪夢を見なかったが、今日もそうだとは限らない。そのためサーシャに同じ部屋で寝て、ノノちゃんの様子を見てもらうようにお願いをしたのだ。
そして翌朝。朝日が眩しく部屋を照らす頃。
「お兄ちゃんおっはよー! もう朝だよ! ご飯だよ!」
ノノちゃんが元気な声で、寝ている俺の上に乗っかってきた。
「うう⋯⋯眠い。後五⋯⋯時間」
「お兄ちゃんそれは寝すぎだよ! それだとお昼ご飯になっちゃうよ」
「冗談、冗談。おはようノノちゃん」
「お兄ちゃんおはよう」
ふむ。どうやらノノちゃんの様子を見る限り、悪夢はなかったように思われる。
「失礼します。リック様おはようございます」
「おはようサーシャ」
サーシャは深々と頭を下げて挨拶をした後、チラリとノノちゃんに視線を送り、笑顔で頷いていた。
やはりノノちゃんの悪夢はなかったようだ。
良かった。ノノちゃんを苦しめていたものがなくなり、俺は安堵のため息をつく。
「お兄ちゃんご飯食べに行こ」
「あ、ああ」
何だか安心したら、今の俺とノノちゃんの態勢があまりよくないことに気づいてしまった。
俺の腹部にノノちゃんのお尻の温もりダイレクトに伝わってくる。
寝起きということもあり、このままだとあらぬ誤解をかけられてしまう可能性があるな。
俺は兄の威厳を保つために冷静沈着のスキルを使う。
このスキル、本当に便利だな。
俺の中の邪な考えはすぐになくなった。
「それじゃあ起きるから、俺の上からどいてもらってもいいかな」
「そ、そうだね。ごめんね」
俺は冷静に対処することができ、ノノちゃん達と部屋を出る。
そしてリビングで朝食を食べていると。
「リックちゃんは今日はどうするの?」
「ドワクさんの所に行ってくるよ。それで早ければ明日にはまたドルドランドに戻ろうと思っている」
「そうなの? 寂しくなるわ」
「ノノちゃんはどうするの? せっかくだからおばあちゃん達とお出かけしようか? サーシャさんもどう? 街を案内するわよ」
「は、はい! ご一緒させて下さい」
「ノノも行く」
どうやら女性陣でどこかへ行くようだ。
おばあちゃんや母さんは、またノノちゃんと離れることがわかり、少しでも一緒にいたいのだろう。
「それじゃあ俺はドワクさんの所に行ってくるね」
そして朝食を食べ終えた俺は、食器を片付けて南西区画へと向かう。
まだ早朝だと言うのに街には多くの人が溢れていた。
俺が初めてズーリエに来た時と比べ、明らかに人の数が違う。
それだけルナさんが代表になったことで、街が活気づいているということなのかもしれない。
俺は周囲の様子を眺めながらドワクさんの所へ向かっていると、前方の人混みの中から、見知った人物が現れた。
「リックさんおはようございます。いつズーリエに戻られたのですか?」
「おはようルナさん。昨日の夜にね」
まさかここでルナさんに会うとは思わなかった。
そしてルナさんの横にはもう一人、俺の知ってる子がいた。
「おはようイリスちゃん」
「おはようございます。リックお兄さん」
ヒイロくんのお姉さんのイリスちゃんだ。
イリスちゃんは以前、元貴族のナルキスの手によって奴隷にされた子だ。
最初に会った時は目が虚ろであったが、今はヒイロくんのおかげで、普通の人と感情表現が変わらないように見えた。
「二人ともこんな所でどうしたの?」
「それは⋯⋯たまたま? そう偶然ここを通りかかったらリックさんとお会いしただけです!」
ルナさんが何だか嘘をついているように見えるのは気のせいか?
だけどその嘘はすぐに純粋な心を持つ少女によって明かされた。
「えっ? 私とルナお姉さんは毎日カレン商店に行ってますよね?」
「そ、そうでしたか?」
「そうですよ。私はリックお兄さんに会いたくて行ってましたけど、ルナお姉さんもそうですよね?」
「わ、私は別に⋯⋯そう! 商品のことでカレンさんと打ち合わせをしにきただけです?」
何故に疑問系なんだ?
「べ、別にリックさんと最近会っていなくて寂しいから、少しでも早く会いたくて通っていた訳じゃありません!」
「そ、そうなんだ」
何だかツンデレのような言い回しだけど、ルナさんはツンデレじゃないからな。店に用があるのはたぶん本当だろう。
「新しい生活でゴタゴタしてしまって、やっとリックお兄さんに会うことができました。とても嬉しいです」
そう言ってイリスちゃんは胸に飛び込んできた。
「俺もイリスちゃんに会いたかったよ」
俺はイリスちゃんが幸せに暮らしている姿を嬉しく思い、抱きしめ返す。
「あっ!」
突然ルナさんから声があがり、俺とイリスちゃんは思わず視線を送る。
「ルナさんどうしたの?」
「いえ、何でもありません⋯⋯」
しかし何でもないと言っているルナさんだが、何やらブツブツと独り言を呟いている。
(本当は私がリックさんと抱擁を交わしたかったのに! それをイリスちゃんに取られてしまいました。素直にならなかったことで、女神様からの天罰を受けてしまったのでしょうか。いえ、もしかしたら初めから私には、リックさんの抱擁を受ける資格はなかったのかもしれません。何故ならリックさんは小さい女の子が好き説があるからです。そのことが本当なら、リックさんが私よりイリスちゃんを選ぶのは当然です。ですがこの問題を見てみぬ振りをしてしまうと⋯⋯)
「リックさんが良からぬことをして、犯罪者になってしまうかもしれません!」
「えっ? ルナお姉さん?」
「はっ! い、今のはその⋯⋯気にしないで下さい」
「は、はい⋯⋯」
何やら良からぬことを考えているとは思っていたが、どうやらまた脳内でむっつりスケベが発動していたようだ。
しかもよりによって犯罪者ってひどくない?
一度ルナさんの頭の中を見てみたいぞ。
「リックお兄さんの温もりを堪能することが出来たので、今度はルナお姉さんどうぞ」
「「えっ?」」
イリスちゃんの思わぬ声に、俺とルナさんは驚きの声をあげてしまう。
今まで何度かルナさんと抱擁を交わしたことはあるけど、改めて口にされると何だか恥ずかしいな。
「わ、私は大丈夫です! そ、それよりリックさんはこれからお出かけですか?」
「ドワクさんの所に行くつもり」
「そうですか。私はこれから仕事です」
「それなら後で役所に行くから少し時間をもらってもいいかな?」
「は、はい! 大丈夫です」
ルナさんにはお願いしたいことがある。
ここで会えたのは幸運だったな。
「もしかしてデートですか?」
イリスちゃんが目をキラキラ輝かせて問いかけてきた。
「いや、違うよ。仕事の話」
「そうですか」
デートって。ノノちゃんの時も思ったが、最近の子はませているなあ。
そしてデートじゃないとわかると、何かがっかりしているように見えた。
「デートじゃないんですね⋯⋯」
あれ? 何だかルナさんもがっかりしているように見えるのは気のせいか?
「リックお兄さん、ルナお姉さんがしょんぼりしちゃいましたよ。男性ならちゃんと責任を取って下さい」
「せ、責任!?」
責任も何も俺は何もしていないけどな。
だけどルナさんの暗い顔は見たくない。
「ルナさん。今度一緒にどこか行きませんか?」
「本当ですか!」
多少気恥ずかしいけどこれでルナさんが喜んでくれるなら。
「あっ! でも⋯⋯実は近い内にラフィーネ様からの要請でブレイヴ学園に行くことになっていまして」
「ブレイヴ学園に?」
ブレイヴ学園とはズーリエから北北東にある学校で、グランドダイン帝国、ジルク商業国、そしてバルツナイト王国の間にある中立地域だ。
国に縛られず優れた者を育成する場所で、不可侵の領域となっている。
何故そのような場所にルナさんが。
俺は驚きを隠せないのであった。
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