第236話 帰還

 俺達はドルドランドから、ジルク商業国の国境沿いまで来ることが出来た。

 ドルドランドに向かう時は盗賊に足止めをされた。しかし今回は魔物は現れたけど、盗賊の類いと会うことなくここまで来れた。

 ウサン州からドルドランドに来ていた荒くれ者達の中に、盗賊達がいたのか? それとも荒くれ者達が捕まったことで、自分達もこのままだとやばいと感じ、逃げた可能性もある。

 何にせよ。治安が良くなったことは良いことだ。

 そしてジルク商業国に入ったが、こちらは盗賊はおろか、魔物の姿すら見当たらない。

 これはズーリエの冒険者達が、治安をしっかりと維持してくれているからだろう。

 そのため、ズーリエの街にはすぐに到着することが出来た。

 日は既に暮れており、暗闇が辺りを支配している。

 俺達は街に到着すると、すぐにカレン商店へと向かった。


「ただいま」

「ただいま~」


 そして光が灯ったカレン商店に入る。


「リックちゃん、ノノちゃん。お帰りなさい」

「二人ともお帰りなさい」


 店には母さんとおばあちゃんがいて、俺達を出迎えてくれた。


「お母さん、おばあちゃん、会いたかった!」


 ノノちゃんは母さんとおばあちゃんの胸に飛び込む。

 すると二人はノノちゃんを優しく抱きしめた。


「私もノノちゃんに会いたかったわ」

「おばあちゃんもよ」


 ノノちゃんは母さんとおばあちゃんに会えたのが嬉しいのか、笑顔が溢れている。

 目の前の三人が、幸せな家族だと思うのは俺だけじゃないはず。

 ノノちゃんに帰るべき場所が出来たのなら、本当に嬉しいことだ。

 これはドルドランドに戻る時、ノノちゃんはズーリエにいてもらった方がいいかもしれないな。


「あら? 後ろにいるのはサーシャちゃんじゃない」

「メメメ、メリス様! カ、カレン様! ご無沙汰しております! せせ、先日はお世話になりました! あいたっ!!」


 サーシャは頭を下げすぎて、近くにあった机におもいっきり頭をぶつけていた。


「だ、大丈夫か?」

「大丈夫です⋯⋯でも痛いです」


 緊張しているのか、それともドジっ娘の称号が関与しているのか。

 とにかく痛みをとるために、俺はサーシャに回復魔法をかけた。


「ありがとうございます。コホンッ! メリス様、カレン様、ご無沙汰しております。先日はお世話になりました」


 どうやらもう一度やり直したらしい。

 今度は噛まずに言えたようだ。

 サーシャのドジっ娘称号は限定的となっているが、今この状況は何か関係しているのだろうか?

 少し気になるな。


「サーシャちゃん大丈夫?」

「はい。お見苦しい所をお見せしました」

「そんなことないわ。サーシャちゃんはいつも通り素敵な女の子よ」

「ありがとうございます。ですがお二人の美しさには敵いません。是非その秘訣を教えて頂きたいです」

「そうね――」


 何だか話が長くなりそうだ。

 女性陣を置いて俺はリビングへと向かう。

 すると椅子に座っているおじいちゃんの姿が見えた。


「おじいちゃん、ただいま」

「ああ⋯⋯」


 相変わらずおじいちゃんは素っ気ないな。

 だけど暫くこの光景も見れなくなると思うと、少し寂しくなる。

 俺はおじいちゃんに背を向けて自室へと向かう。

 そして一時間程経つと、夕食の時間となったので、俺はその場でドルドランドで起きたことを話す。


「だから暫くズーリエには戻らないと思うんだ」

「なんじゃと!」


 俺が話終えると突然おじいちゃんが大声を上げた。

 び、ビックリした。おじいちゃんがこんなに感情を露にするのを初めて見たぞ。

 何か気になることでもあったのか?


「おじいさんどうしたの? まさかリックくんがこの家から離れるのが寂しいの?」

「べ、別にわしはリックがいなくても寂しくなんかない!」


 そう言っておじいちゃんは席を立ってしまうのであった。


 おじいちゃんside


 リビングを出たおじいちゃんは直ぐ様自室へと駆け込む。

(な、なんじゃと! リックが家を出ていく! そんなバカなことがあってたまるか! リックはずっとここにいて結婚し、曾孫を作って、そして家族に見送られながら、あの世に旅立つというわしのプランが⋯⋯これも素直にならなかったわしへの罰なのか! 女神様、どうかわしのささやかな夢を潰さんでくれ!)


 おじいちゃんは俺の知らぬ所で、思いの丈を心の中で叫ぶのであった。

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