第235話 不名誉な称号

 名前:サーシャ・フォン・ガーデンブルク

 性別:女

 種族:人間

 レベル:28/200

 称号:公爵家の令嬢・ドルドランド領主代行・淑女・ドジっ娘(限定的)・ヤンデレの卵

 好感度:S

 力:82

 素早さ:182

 耐久力:82

 魔力:3231

 HP:201

 MP:891

 スキル:魔力強化B・簿記・料理・掃除・護身術・短剣技A

 魔法:精霊魔法クラス6


 あっれぇぇぇ⋯⋯おっかしいぞぅ⋯⋯

 魔力が高い⋯⋯これはいい。フェルト公爵の娘ならあり得ることだ。

 称号のドジっ娘⋯⋯これも以前からたまに何もない所で転んだりしていたので、納得できる。ただ限定的というのが気になるが。

 しかしその後の称号⋯⋯ヤンデレの卵って⋯⋯

 酔っ払った時にヤンデレモードになったことがあるけど、初めから素養があったという訳か。

 だけど今はまだ卵だから覚醒させなければ大丈夫なのか?

 好感度もSで初めてみるし、もしヤンデレにレベルアップしたら、恐ろしいことになる可能性がある。

 もしこの好感度Sが異性として好きというものだったら、他の女性に少しでも目を奪われた瞬間に、サーシャのスカートの下に隠されたナイフで、切り裂かれるかもしれない。

 なんてったって短剣技はAだからな。

 まさかヤンデレだから短剣のスキルが高いのか?

 とにかく恐ろしいことにはかわりない。


「どうでしょうか? 私の能力は⋯⋯」


 サーシャが少し不安気に、上目遣いで問いかけてくる。


「えっ? いや、え~と⋯⋯」

「言い淀むということは、私の能力は口に出すことができない程、よくないということですね」


 俺が言いづらそうにしていると、サーシャが自分で結論付けてしまう。

 確かにある意味よくないと言えばよくない。

 と、とにかく余計なことは話せなければいいよな。

 俺は称号以外のことを伝えることにする。


「そんなことない。レベルは28で上限値が200まであるよ」

「じょ、上限値! 真実の石ではそこまで能力はわからないはずですが」

「俺の鑑定スキルではわかるみたいだ」

「さすがはリック様です」

「後魔力がとても高いと思う」


 3231は、今まで鑑定で視た人の中では断トツに高い。


「サーシャは精霊魔法の才能があるね」

「リック様にそう言って頂けると嬉しいです」

「とりあえずまだまだレベルを上げることが出来るから、サーシャはきっと強くなれるよ」

「リック様⋯⋯ありがとうございます」


 強くなりたいサーシャにとって、レベルの上限値が高いことは、本人のやる気に繋がるだろう。


「それじゃあダンジョンも攻略したし、ズーリエへ向かおうか」


 俺は街道へと戻ろうとするが⋯⋯


「お待ち下さい」


 突然サーシャに腕を捕まれる。


「どうしたんだ?」

「リック様⋯⋯私の能力で、他に気になることはありませんでしたか?」

「な、なんのことだろう。もしかしてスキルのことかな」

「いえ、称号のことです。誰にも知られたくなかった称号を、リック様は視ましたよね?」


 よくよく考えて見ると、サーシャは真実の石で自分の称号を確認しているはず。ヤンデレのことを知らないはずがない。


「た、確かに少しユニークな称号があったけど⋯⋯」

「このことは秘密でお願いします」

「あ、うん。勿論誰にも言わないよ」

「もしこのことを他の人に知られたら⋯⋯私、何をするかわかりません」


 そ、それはナイフで切り刻むということですか!


「わかった。ここだけの秘密だ」

「良かったです。少し不名誉な称号ですから」


 サーシャは笑顔で安堵している。

 あれ? 思っていたよりサーシャはヤンデレのことを気にしていないのか? だけどこの後のサーシャのセリフで、俺は勘違いしていることに気づいてしまう。

 サーシャは俺の顔の側まで来て、小さな声で囁く。


「この年になって【ドジっ娘】の称号なんて恥ずかしいですよね」

「えっ? そ、そうそう! そのことね!」


 ヤンデレのことじゃなかったのか!

 もしかしてサーシャはヤンデレのことを知らないのか!?


「リック様? その反応は、何か他に気になることがあったのですか?」

「いや、そんなことないよ! 完璧なサーシャにその称号があるのは、ギャップがあって可愛らしいと思うよ!」

「そ、そうですか」

「そうだよ! それより早く街に行かないと! 日が落ちて野宿することになるかもしれないから、急いでズーリエに向かおう!」


 俺は称号の話題から反らすために、捲し立てるように言葉を口にする。


「そうですね。暗くなる前にズーリエへと向かいましょう」

「しゅっぱ~つ」


 そして俺は何とかヤンデレのことは誤魔化し、目的地であるズーリエへと向かうのであった。

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