第108話 望まぬ追跡者

 ラフィーネさんと交信してから5日ほど経った。


 それまでの間何度かラフィーネさんとは連絡を取っており、ジルク商業国の兵達は間もなくタージェリアに到着するとのことだった。

 そして2日前にラフィーネさんからルナさんとの交信が途絶えたことを伝えられた。

 ルナさんとの連絡がつかない原因は3つ考えられる。

 1つはルナさんが身につけている交信の腕輪が外されてしまったこと。2つ目は交信の腕輪が故障してしまったこと。そして1番考えたくないのはルナさんが既に殺されているということだ。


 すぐにルナさんの所に駆けつけたい気持ちがあったけど俺は自分ができることを優先した。だけど頭ではわかっていても心はついていかない。

 俺はルナさんの元へ行くことより別のことを優先してしまったがそれで良かったのか。

 ラフィーネさんから連絡をもらった時にすぐにルナさんを助けに行くべきだったんじゃないか?

 この5日間何度も自問自答をした。特にルナさんからの連絡が途絶えたとラフィーネさんから連絡を受けた時は後悔の念が一気に押し寄せてきて、俺の選択は間違っていたんじゃないかと何度も頭の中で考えた。

 だけど今はもう前に進むしかない。


 そして俺はタージェリアの近くに到着するとそこはすでに戦場とかしていた。

 ラフィーネさんは1,500人の兵を送ったと言っていたが俺の探知スキルで視る限りザガド王国の兵は倍近くいるようだ。

 数が半分しかいないため戦いは劣勢。だけどこんな時にこそ俺の補助魔法が役に立つ。兵達の能力を上げれば数の劣勢を覆せるはずだ。

 それに俺は5日前の俺とは違う。今なら兵の100や200来ても苦戦せずに倒す自信がある。何故なら⋯⋯。


(リックさん聞こえますか?)


 突然頭の中にラフィーネさんからの声が聞こえてくる。この5日何度もラフィーネさんとは交信していたから頭の中に声が響いても俺は驚くことはなくなった。


(俺は今タージェリアの近くにいてラフィーネさんのいる位置から南西に500メートル程の所にいます)


 俺がラフィーネさんにメッセージを送る。すると1分くらい経つとラフィーネさんか返事がきた。


(20分程前にザガド王国がこちらに攻めてきたため戦いが始まってしまいました)


 なるほど。500メートル程の距離だと1分程のタイムラグで話が伝わるのか。そうなると5,000メートルだと10分くらいかな? いや距離が離れれば離れる程伝わる時間も伸びる可能性があるからこれは検証が必要だ。


(斥候隊からの話ですとやはりザガド王国は誰かを探している様子でした。私達の存在が邪魔になったから攻撃してきたみたい)

(でもそのおかげでタージェリアの方は手薄になっているから俺はルナさん達を助けに行きます)

(ごめんなさいね。危険な役をお願いしちゃって)

(大丈夫です。任せて下さい)

(それと)

(ええ、ですからラフィーネさん達は命を護ることを優先でお願いします)

(ありがとう。あなたは本当に私達の救世主ね)

(それは全てが上手く行ってから言って下さい)

(そうね。その時は精一杯のお礼をさせてもらうわ)


 ここでラフィーネさんとの通信は切れる。ちなみにラフィーネさんと話をしている間も俺は探知スキルを使って兵隊がいない場所を走り、タージェリアへと向かっていた。

 やはりラフィーネさん達の部隊に気を取られているせいか兵隊の人数が少ない。というかほとんどいなくないか?

 ザガド王国は街を占領するつもりがないように見える。こうなるとラフィーネさんが言っていた誰かを探しているという話が現実味を帯びてくるな。

 だが俺には関係ないことだ。とにかく今はルナさん達を助けることが出来ればそれでいい。


「クラス2旋風フウァールウインド創聖魔法ジェネシス、クラス2烈火レイジングファイア創聖魔法ジェネシス


 俺は自分に強化魔法をかけてタージェリアを囲っている3メートル程の壁をジャンプで越える。


 そして探知スキルを使いながら街の中心へと向かうが、周囲には誰の姿もなかった。だけど家の中に住民達はいるようだ。

 どうやらザガド王国軍は略奪行為を行っていないようで少し安心した。

 戦争で苦しむのはいつの時代でも一般市民だからな。

 後はルナさんを見つけることができれば⋯⋯いた!


 ちょうど街の中心部にあるズーリエと同じような役所の建物の中にルナさんと10名ほどの人達が縄で縛られている様子が視えた。

 監視の兵隊も15名程しかいないため、隙をついて一気に倒せばルナさん達を人質に取られることなく救うことができそうだ。


 俺はルナさんが生きていることに安心して思わず安堵の笑みを浮かべるが、この時後方から俺を追ってきている者の姿が視えた。


「くっ! このタイミングでお前がくるのか!」


 どうやっているのかわからないけど追跡者は俺の後を真っ直ぐと追ってきている。

 このまま街中で戦闘をして騒ぎを起こすとルナさん達の監視の目を増やされてしまい、逃がすのが困難になってしまうかもしれない。


 俺は進路をルナさん達が捕らえられている街の中心部から西に変更し1度街から出る。

 そして誰もいない荒野で待っていると追跡者は隠れることなく俺の前に姿を現した。


「ようやく会えたな⋯⋯リック!」


 その男は顔を歪ませ、俺を殺す気だということが一目でわかる程の憎しみを向けてくるのであった。

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