第107話 ザガド王国

 俺は突然耳に入ったてきた声に驚くが、すぐにこの声が交信の腕輪から聞こえてくるものだと気づいた。


「リック様? どうされましたか?」

「静かに」


 今は俺がどうなるかよりラフィーネさんの声に耳を傾けたい。何故ならラフィーネさんの話の中にルナさんが大変だという言葉があったからだ。


(聞いているものだと思って話させてもらうわね。リックさんも私の声が届いたら返事をしてくれると助かるわ)


 このメッセージはいつ送られたものなのか。ありえない話だけどこんな時に携帯電話があればタイムリーに情報を聞くことが出来るのにと考えてしまう。


(ルナさんがタージェリアの街に滞在中に捕らえられてしまったの)


「ルナさんが捕まった!」


 俺はラフィーネさんの言葉に思わず声を上げてしまう。


「えっ? ルナお姉ちゃんが捕まっちゃったの!」

「ああ、どうやらそうらしい」


 ノノちゃんと母さんは俺の言葉に驚き、そしてサーシャは何か緊迫した状態だと悟ったのか黙ってこちらに視線を向けている。


 ルナさんを捕らえるとかどこの誰がそんなことを。1番考えられるのが盗賊だがもしかしてウェールズの残党がいて、ルナさんが街を離れるのを狙っていたのか?

 とにかく急いでタージェリアの街に行ってルナさんを助けに行かないと。俺の探知スキルならある程度近づくことができればルナさんの居場所を特定することができる。


 俺は頭の中でいくつものパターンを想像していたがこの後のラフィーネさんの言葉はその中でも最悪なものだった。


(リックさん、あなたのことだからルナさんをすぐにでも助けに行こうと考えているかもしれないけど少し待って)


 待て? 今の俺なら多少の人数がいた所でルナさんを救い出せるはずだ。申し訳ないがラフィーネさんの言葉を聞くことはできない。


(私も交信の腕輪で聞いただけだからハッキリとしたことは言えないけどルナさんを捕縛した相手の人数は10や100ではすまないみたいなの)


 100人以上はいるってことなのか? 100人以上もいる盗賊なんて聞いたことないし、ウェールズがルナさんに恨みを晴らすために100以上も雇うとは考えられない。そのような大人数で人を捕まえるなんていったいどこの誰がそんなことを。


(その人数は軽く1,000人は越えていたそうよ)


 1,000人! それはもうただの集団じゃない! まるで軍隊じゃないか!


(ルナさんの話ではその大部隊が掲げていた旗はザガド王国のものだったと言っていたわ)


 ザガド王国!? そんな大部隊がジルク商業国に入ってきたということはもしかして⋯⋯。


(ザガド王国がジルク商業国に侵略して来たのよ)


 最悪だ。何故ザガド王国がジルク商業国に⋯⋯まさかラフィーネさん達が倒した魔王化の魔物が関係しているのか? いや、まだそう決めつけるのは早い。魔物を手懐けるなんて普通はできないことだからな。


(タージェリアは戦うことなく陥落してしまい、街の有力者やたまたまその場にいたルナさんは捕縛されて現在周辺地域を占領してるようだからいずれズーリエにも侵略してくる可能性が高いわ)


 確かにザガド王国とジルク商業国は同盟国ではないけど友好関係にあったはずだ。俺が知らないだけで2国の間に戦争をする原因があったのかもしれないけどそれにしたって急すぎる。宣戦布告もしていなかっただろうに。いや、宣戦布告なんて俺が前にいた世界の考え方だ。本当に戦いに勝つためなら相手に準備をする時間を与えず一気に攻め滅ぼした方がいい。


(私は急ぎ他の州の代表と連絡を取って私設兵団をそっちに送るからくれぐれも無茶はしないでね)


 それは状況にもよる。だがこのまま待っているだけでいいのか? 俺にできることはないのか?


(それともう1つ。これはルナさんがザガド王国を見て感じたことみたいだけど⋯⋯ザガド王国は誰かを探しているようだったと言っていたわ。それが今回の侵略と関係あるかわからないけどリックさんの耳には入れておいた方がいいと思って)


 ザガド王国は誰かを探しているか? 確かに気になる情報ではあるけどそれだけで侵略をしてくるかな?

 だけど無関係というには情報が足りなすぎる。一応頭のすみには入れておくとしよう。


(それじゃあこのメッセージを聞いたら必ず連絡をしてね。私の方も何か新しい情報が入ったら伝えるから)


 こうしてラフィーネさんからの連絡は途絶えた。

 俺はすぐに自分の考えを交信の腕輪を使ってラフィーネさんへと送る。

 そしてラフィーネさんへメッセージを送り終えた時。


「お兄ちゃん、ルナお姉ちゃんは大丈夫なの?」

「タージェリアっていう街でザガド王国の兵隊に捕まっているみたいだ」

「ザガド王国って、まさかジルク商業国に侵略してきたの?」

「そうみたいだ。それで今州の代表であるラフィーネさんが――」


 俺はラフィーネさんから聞いた内容を全て母さん達に伝える。


「母さんはハリスさんにこのことを伝えてきてくれないか」

「わかったわ。それでリックちゃんはどうするの?」

「俺は急いで行かなくちゃならない所があるから」

「それはどういうことでしょうか?」


 俺は先程ラフィーネさんに送ったメッセージ内容を3人に話、そして急ぎズーリエの街を後にするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る