Storia di gloria
水神鈴衣菜
Celine Agnekite
十五歳
生まれてこの方、女の子らしさというものを分かったことはなかった。
近所の子供たちの中でも頭ひとつ分ほど背が高く、力も強かった。男の子に紛れて遊んでいた。裁縫も料理も全く出来なかった。
家族や周りの子は私を変な子だと言っていた。でもどう言われようとこれが私だし、と割り切っていた。
私の幼い頃からの夢は、この国を守る
朝から緊張で心臓がずっと早鐘を打っていて、落ち着かない。
「頑張りなさい、セリーヌ。名誉ある騎士団の一員になれるように」
「もちろんだよ、お母さん」
「さあ、一日全力でやってこい」
「ありがとう、行ってきます!」
試験は朝九時から夕方の十六時まで、一日で筆記試験と実技試験をこなさなければならない。
朝ごはんはしっかり食べてきたし、前日も早く寝て体調は万全だ。これなら最大限のパフォーマンスができるはず。
「あ、セリーヌ」
「ユリス? なんでここに」
ユリス。私と同い歳で、今代の王の実弟の息子。私がもっと幼かった頃に、城の近くから家まで帰る途中で怪我をし動けなかった時助けてもらったのが出会いだった。
彼には私の夢を話しているし、応援してくれている数少ない友人の中の一人でもあった。
「今日は午後の実技試験だけ見に行くように言われているからね。これは友達の激励に来た君の友人だよ」
「わざわざ、私のために?」
「頑張って。本当は一人を応援するのはよくないのだろうけど」
「ありがとう、絶対合格してみせるから」
十五歳から試験を受けることはできるが、その歳で試験に合格し晴れて団員になれる者はほんのひと握りだと言う。
「……緊張してる?」
「うん、心臓バクバク」
「いつも通りで大丈夫だよ、セリーヌは強いから。なんせ僕と互角の勝負をするんだからね」
「ユリスも強いもんね」
「お褒めに預かり光栄だな」
ユリスと話していたら、少し緊張がほぐれた気がする。素敵な友を持ったなと思った。
「さ、頑張ってきて」
「うん。ありがとう、見ててね」
筆記試験では、基本的な計算や文字の読み書きが出来るかどうかが問われた。
そして昼食を取り、小休止を取った後実技試験になった。試験の内容は、一対一の模擬戦。それを広い武道場の中で何組かずつ行う。制限時間は十分で、先に相手の急所──例えば首、心臓部などを木刀で抑えられた方が勝ち。それを休憩を挟みながら何人かとするのだ。
あっという間に時間は過ぎ、実技試験が終わった。私の戦果は八戦中勝ちが五、負けが三。一応勝ちが多かったが、ギリギリになってしまった。
相手は強かった。それぞれ様々な戦い方があり、いつも剣術ばかりだった私には新鮮なものだった。これで落ちてしまっても、様々な戦い方に触れられたことが大きな収穫になったと思う。
特に、私より二つ三つ上のカリムという剣術に優れた者と三戦目で戦ったが、彼の技術には圧倒されたし、三つあるうちの負けの一つが彼との試合だった。身軽で、それでいて芯があって。蝶のように舞い、蜂のように刺す、という言葉は彼にぴったりだと思った。
しばらくして、王城から鳩便が届いた。私は白い羽の鳩の足に括り付けられた手紙を取り、運んでくれた鳩の喉元を撫でてあげた。鳩は心地よさそうに目を細めた。
「なにが届いたの?」
「たぶん、試験の結果だと思う」
「早く開けてみて」
「うん」
麻紐の蝶結びをほどき、手紙を広げる。
「『第百五十二回 騎士団選抜試験 セリーヌ・アグネカイト 厳正な試験の結果、この者の騎士団への入団を認める。国のため、王のため、その力を存分に振るうように。』」
「合格、ってこと?」
「そう、みたい」
「やったじゃないの! すごいわ!」
「頑張ったなセリーヌ!」
私は驚きで何も言えなかったが、しばらくして実感とともに喜びが押し寄せてきた。
「……私、騎士団の一員に、なれたの?」
「そうよ、名誉ある騎士団の一員!」
「夢が、叶ったの?」
口角が緩む。ほっとして、椅子に座り込んでしまう。
「やったんだ、私……」
いつもの稽古の場所に行けば、また今日もユリスに会える気がした。私は全力で、出来る限り速く走った。早くこの喜びをユリスと分け合いたいと思った。
「っは、はあっ……ユリス!」
「どうしたんだい、そんな必死で」
「私……、はあっ」
「落ち着いて落ち着いて、息が整ってから聞かせてくれ」
ユリスは困ったように微笑んで、私の背中をさすってくれる。私はゆっくり呼吸し、息をなだめる。
「……えっとね、私」
「ああそうか、今日は選抜試験の結果発表の日だったね。結果を伝えに来てくれたのか」
「そうそう。これ、見て」
私は王城から届いた鳩便の手紙をユリスに渡す。さっき私がやったように、ユリスも手紙の内容をゆっくりと読み上げた。
「……合格、したのか」
「うん」
「やったじゃないか! 頑張ったな、おめでとう、セリーヌ」
そう言って彼は私をぎゅっとハグした。私もハグをし返す。
「ありがとう、ユリス」
「やっぱりセリーヌは僕の自慢の親友だよ」
「嬉しい」
しばらくして、どちらからともなく腕をほどいた。こんな風に祝ってくれる友達がいて、私は幸せだと思う。
「明日から団員として稽古かい?」
「たぶん。団寮に入ることになるから、しばらくは会えないかも」
「家に帰れる日もあるんだろう」
「うん、国の独立記念日と、戦勝記念日には帰れると思う。もう何日かあったかな」
「その日は僕もここに来るから。その時は寮でのこととか、いろいろ教えて欲しい」
「もちろんだよ」
「改めて、おめでとうセリーヌ」
「ありがとう、ユリス」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます