あともう少し

摂津守

あともう少し

 「あともう少し……」


 少年は手を伸ばし、ボールを取ろうとしている。

 ボールは金網の向こうだ。金網の向こうは雑草が生い茂っていて、入り込んでしまったボールが微かに見えている。


 「も、もう少し……」


 金網の底面はわずかに地面から浮いている。

 少年は伏せ、金網と地面の隙間に手を入れる。前腕を入れ、二の腕を入れる。

 少年の額から汗が滴る。夏の日差しが眩しく暑い。


 「もう、少し……」


 指先が触れた。爪をひっかけ、手繰り寄せる。上手く転がった。指先で捕らえ、さらに手前へ転がした。そして、捕まえた。ボールを握りしめ手を引く。


 すると……、


 金網の向こうから少年の手を追いかけるように、黒い大きな手が伸びてきた。

 驚いた少年は慌て、急いで手を引き、勢い余って後ろへ転げ、尻もちをついた。

 間一髪、少年は黒い手から逃れた。黒い手は少年の手の代わりに金網を掴んだ。音を立てて金網が揺れた。

 金網の向こうから声がした。


 「あともう少しだったのに……」

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あともう少し 摂津守 @settsunokami

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