第22話 ハッピーエンドぶち壊し隊

 

「どうしてそうなるんだよ。そんなの絶対おかしいって」


 トリュスが頭をかいて困った表情を浮かべた。

 私の事なのに。

 その優しさにどこか嬉しさを感じながら、けれど私は彼に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい、せっかく気遣ってくれたのに」

「お前」

「でも、これで問題は解決するし、家族にも迷惑はかけなくて済むの」

「……」


トリュスは明らかに複雑そうにしている。


「大丈夫。言ったでしょ、使ったお金は返さなくていいって。つまりあの家は私の物。住む場所が確保されているんだもの、そこからゆっくり新しい人生をスタートしていけばいいのよ。そうだ、フラワーショップで働かせてもらうなんてどうかしら」

「前向き過ぎるだろ……」

「それくらいしか、今は取り柄が無いもの」


 でも別にそれで死ぬわけじゃない。

 だからなんとなく平気な気がした。


「あ、でもあなたに用心棒の報酬は支払えなくなっちゃうかも。ごめんなさい」

「……そんな他人のこと心配してる場合じゃ無いだろうに」

「え?」

「ったく」


 彼はなんだか呆れているようだった。

 けれど私の心はというと、いつにも増して晴れやかだった。

 

「私、もしかしてこれまでの人生に完全に決別したかったのかも」

「なんだよそれ」

「私、家は出たでしょ? でも、厳密に言えばアレンからのお金が付いてきた。そして彼自身も私を追いかけてきた。おまけにリリィも」


 縁を切ったと思っていた。

 けれど、なんだかんだで、そこにはまだ繋がる要素があった。


「でも今度こそ本当に終わったの。今は私、それが嬉しい」

「変な奴」


 トリュスがぽそりと言う。


「でもま、そういう考え方もありなのかな」

「ありでしょう?」


 いつの間にか私は笑っていた。

 私につられるようにトリュスも笑った。


 なんとなく、いい日だ。

 決して財も地位も無いけれど、こんな日が続けばいいと思った。


「なによ」

「え?」


 それはリリィの呟きだった。

 俯いて、拳に力を入れてぷるぷると何かに震えている。酷く具合が悪そうだ。


「……リリィ?」

「なによ、なによ、なによなによなによ!」


 彼女は突然、堰を切ったように叫び出した。


「ど、どうしたの?」

「どうして? どうしてお姉様は結局幸せそうなの? 私の方が可愛いって称賛されていた時もそう。私に婚約者を奪われた時もそう。今回だって、無一文になった時でさえ、お姉様は幸せそうに笑っている!!」


 すごい剣幕でリリィは毒を吐き切るように、罵詈雑言を並びたてた。


「ああ、馬鹿みたい! 本当は不幸せな癖に勘違いしちゃって! あんたなんか大っ嫌い」

「お前、妹だからっていい加減にしろよ……?」


 トリュスがリリィの腕を掴もうと手を伸ばす。

 それを見て、はっとしたように彼女は目を輝かせた。


「そうだわ。どうせ何しても勝手に幸せになるんでしょ? それならば彼のことも譲って、お姉様!」

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