第43話 大人しい二人の少女
銀髪の女の子はらーちゃんで桜色の髪の女の子がみーちゃんだそうだ。二人は叔父さんと叔母さんの生徒さんだという事なのだが、叔父さんと叔母さんは学校の先生ではないはずだし、一体何を教えているのだろうという疑問はあったのだ。
「本当に遠いところまでよく来てくれたね。昌晃君の他に頼める人がいなかったから本当に助かるよ」
「思っていたよりも遠かったんでビックリしましたけど、この二人って誰なんですか?」
僕は車の後部座席の真ん中に座っているのだけれど、僕を挟むようにらーちゃんとみーちゃんが座っているのだ。二人とも小柄なので狭いということは無いのだけれど、何となく隣に女の子が座っているというのはソワソワしてしまって落ち着かないのだ。
それにしても、空港の待合室にいた時と違って二人とも随分と大人しいもんだなと思ってしまった。何となく二人の顔を見てみようと思って左右を見ていたのだけれど、二人とも僕から視線を外すかのように外の景色を眺めていた。そんな事が叔父さん達の家に着くまで続いていたのだった。
「みーちゃんとらーちゃんはこの村に療養出来ているんだよ。私らも詳しいことは知らないんだけど、自然環境の豊かな場所でゆっくりと過ごすのが一番いいらしくてね」
「そうなんだよ。最初に来た時に比べてすっかり元気にもなってきたしね。昌晃君が来るって事を教えたらずっと楽しみにしてたみたいだからね。昨日だってなかなか寝付けなかったみたいだからね」
「先生、あんまりそう言う事言っちゃダメです。らーちゃんがずっとお兄さんの事待ってて寝れなかったとか内緒にしてって言ったじゃないですか」
「ちょっとちょっと、みーちゃんの方がお兄さんが来るの楽しみだって言ってたじゃない。私にずっと話しかけてきてて寝れなかったもん」
二人はそれからも少し言い合いをしていたのだけれど、結局のところ僕が来ることを楽しみに待っててくれたという事は伝わったのだ。僕に会いたいと思ってくれてはいたのだろうけど、こうして隣にいるというのに二人とも外ばかり見ているのはちょっと寂しいと感じてしまったのだ。
「それで、なんで叔父さんと叔母さんの事を先生って呼んでるんですか?」
「私は織物を教えていてそれで先生って呼ばれてるんだよ。お父さんの方は木彫り彫刻を教えてるから先生って呼ばれてるのかもね。この村の人達はみんな何かしらの技能があるからみんな二人からは先生って呼ばれてるんだけど、昌晃君も何か二人に教えてあげたら先生って呼ばれるようになるのかもね」
「僕が教えられるような事なんて何もないですけどね。そう言えば、なんで僕を呼んだんですか?」
「昌晃君には二人の話し相手というか、遊び相手になってもらいたいなって思ったんだよ」
「それくらいだったらお安い御用ですけど、なんで僕なんですかね?」
「他にも何人か候補はいたんだけどね、写真を見たら二人とも昌晃君が良いって事になったんだよ。年齢も二人に一番近いって事だし、昌晃君が大丈夫だったら着てもらおうって事になったって事さ」
「兄さんは大丈夫だから任せておけって言ってくれたんだけどさ、本当に来てくれるのかはさっきまで心配してたんだよ。二人は絶対にくるから大丈夫だって言ってたんだけど、少し不安だったというのは事実だからね」
僕の彼女の愛ちゃんは家族旅行で二週間ほど海外に行くと言っていたし、家にいたとしても朱音の勉強の邪魔になるという事で居場所も無かったのだ。部屋に引きこもって漫画でも読んでいようかと思ったりもしたのだけれど、父さんから叔父さんのところに行って来いと言われた結果今に至るのだ。
こうして車に揺られている現状も何をすればいいのかさっぱりわからないけれど、こんな僕でも何かの役に立てるのであればそれでいいだろう。
叔父さん達の家に着くと二人の少女は我先にと車から降りてトランクから僕の荷物を取り出して家の中へと駆け出していった。いくら田舎とは言え鍵をかけていないのは不用心だと思うのだけれど、最後に家を見たのは何分も前だったと思うから誰かが泥棒に入るという心配もないのかもしれないな。
「用意した部屋にはテレビはないんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。そんなにテレビを見るわけでもないですし」
「それは良かった。お腹は空いているかな?」
「飛行機に乗る前にしっかり食べたんでまだ空いてないですね。いつもこれくらいの時間にご飯食べてるんですか?」
「私達はちょっと遅めに食べてるんだよ。ついつい仕事に夢中になっちゃってご飯を作るのを忘れちゃうことがあってね。これくらいの年になるとあんまり食欲もわいてこないってのもあるんだろうけどさ」
僕の両親も以前に比べると食べる量自体は減っているような気もする。でも、妹の朱音が作ったお菓子なんかは残さずに食べているし、ただ単に面倒になっているだけなのかもしれないな。僕も休みの日で用事が無い時は昼を食べずにダラダラと過ごすこともあるのだけれど、それとは少し違うような気もしていた。
「今日はね、みーちゃんとらーちゃんでお兄さんのためにご飯を作りたいと思ってるんだけど、先生はそれでも大丈夫ですか?」
いつまでたっても家に入ってこない僕たちを心配したのか二人の少女が窓から体を乗り出して話しかけてきた。もう少し前に出てしまうとバランスを崩して下に落ちてしまいそうに見えるのだけれど叔父さんも叔母さんも全く心配している様子が見られないのでコレはごくありふれた日常の一コマなのかもしれない。
「それじゃあ、二人にお願いしちゃおうかな。叔母さんはその間に残っている仕事を片付けちゃおうかな」
「ありがとう。お兄さんのために美味しいご飯作るからね。らーちゃんの作る焼きそばとみーちゃんの作る焼きそばのどっちが美味しいか食べ比べしてね」
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