第20話 愛ちゃんと肝試し
オカ研メンバーで肝試しに行くことになったのだが、なぜかその中にはオカ研メンバーではない愛ちゃんと真美ちゃんがいて、僕の妹の朱音までついて来てしまったのだ。
普段活動に参加していないオカ研メンバーもこの日ばかりは多く集まっていたし、メンバー以外の参加者もいたので問題は無いと思うのだけれど、さすがに中学生の参加はどうなのだろうと思っていた。
「ねえお兄ちゃん。あっちに私の学校の子がいるよ。あの子は怖がりっぽいのに大丈夫なのかな」
朱音以外にも中学生の参加者がいるみたいだ。
肝試しなので人数は少ない方がいいような気もするのだけれど、これだけの人数がいれば何も怖いことなんて起きやしないだろうな。幽霊なんかがいたとしても、逆に恐れて出てこれなくなってしまってそうだと僕は思っていたのだ。
「私達も参加してよかったのかな?」
「会長は誰でも参加して良いって言ってたから問題無いと思うよ。それよりもさ、真美ちゃんって呼ばない方が良かったんじゃない?」
まだ何も始まってはいないのだが、真美ちゃんはちょっとした物音にも反応するくらいビビっていて、誰かの側から離れることが出来なくなっていた。
見かねた朱音と陽菜ちゃんが真美ちゃんを落ち着かせようとしているのだが、どうやっても真美ちゃんは落ち着くことが無く救護用テントの中で手を合わせて何か祈っているようであった。
そんな真美ちゃんの姿を見て他の参加者たちも身構えているようなのだが、残念なことに今から見て回る池には何の謂れもないのだ。ただの水辺で霊的な話は一切聞かないし、会長も霊が見えるという話はしていないのだ。
「それにしても、私が思っていたよりも人が集まってくれて良かったよ。一応オカ研のメンバーには声をかけておいたんだけど、こういうイベントには参加してくれる人が多かったみたいだね」
「普段の活動にもこれくらい参加してくれたら盛り上がりそうですよね」
「どうだろうね。私達が普段やっていることと言えば文献をあさったり噂を調べたりといった地味な物ばかりだしね。人数が多ければどうにかなるってものでもないし、いつもみたいに少人数でやるのもいいのかもしれないよ」
「その方がいいかもしれませんね。というか、朱音っていつの間に真美ちゃんや陽菜ちゃんと仲良くなってたんですかね。接点なんて何も無さそうなのに」
「接点ならあるじゃないか。まー君、君の存在だよ」
「僕ですか?」
会長は朱音たちを見た後に僕と愛ちゃんの方を向いて少し間を置いて話し始めた。
「私も含めてなんだが、みんなまー君の事が好きなんだ。私達がそれに気付いたのはまー君が愛ちゃんと付き合ってからなんだよ。他の人がどうだっかはわからないけれど、私はまー君と一緒に過ごしてきた何気ない時間を思い返すと幸せな時を過ごしていたんだと実感したんだ。もちろん、まー君が愛ちゃんの事を好きだってのは知っているよ。それでも私は、私達はみんなまー君の事が好きなんだよ。この気持ちが報われることも無いという事を私は知っているし、私達もみんな納得はしている。朱音ちゃんだって家族として好きなのか異性としての好きなのかわからないと言っていたけれど、まー君の事を騙る時の朱音ちゃんの目は恋する乙女そのものだったよ。陽菜ちゃんと真美ちゃんはまー君と出会ってそんなに日は経っていないと思うけど、気持ちは変わらないはずだよ。そんなわけで、私達はまー君と愛ちゃんの事を応援することにしたんだよ」
「ちょっと待ってください。会長たちの気持ちは嬉しいですけど、僕は愛ちゃん以外の人を好きになることなんて出来ないですよ」
僕は今までモテ期がきて欲しいと思ったことはあったけれど、こんなに修羅場みたいなものだったら来ないで欲しいとさえ思ってしまった。
自分の恋人が目の前で告白されるところなんて見たくないと思うし、ライバルだって一人じゃないっていうのはどうなんだろう。僕が愛ちゃんの立場だったらいい気にはならないだろう。
「まー君、大丈夫よ。私はまー君が私だけを見てくれるって信じているから。会長さんと陽菜ちゃんはそうなんだろうってうすうす気づいてたけど、真美ちゃんまでまー君の事を好きになるのは予想外だったな。でも、それってさ、それだけまー君が理想的で素敵な人だってことだもんね。私はそんな素敵なまー君に選んで貰えて幸せだと思うよ。だって、まー君の良いところを一番最初に見つけたのは私だからね。ずっと一緒に暮らしてる朱音ちゃんだって気付いてなかったまー君の良さを知ってるのは私だけなんだからね」
肝試しのコースは池を一周して帰ってくるだけという単純なものであった。
各自思い思いのペアを作って一周してくるのだが、前の組が出発してから適当に時間を空けてスタートをするというものである。
会長の話では何か仕掛けをしているという事もなく、チェックポイントなんかも用意していないいつもと何も変わらないとのことだ。日中であれば適度に木陰もあって自然に恵まれた散歩コースとなっているのだが、日も落ちて暗くなっているこの道は思っていたよりもおどろおどろしモノを感じてしまう。
街灯も無いので夜に来たことは数えるくらいしかないのだが、池に沿って出来ている遊歩道なので直線も少なく前を歩いている人の提灯型のランタンの明かりも草木に隠れてハッキリと見えるということも無かったのである。
僕と愛ちゃんは前の組がスタートして十分後に出発したのだが、みんなが見えなくなるまでの短い時間はお互いに無言でいた。
何か話をしようと思っていたのだけれど、肝試しの雰囲気に合わないような話題しかない僕は何も話すことが出来ず、愛ちゃんも薄く照らされた足元を見ているだけなのだ。
結局のところ、僕と愛ちゃんは足もとをかすかに照らすランタンの明かりを頼りに慎重に歩いているのだが、何事もなくこのコースを終えようとしていた。
「何か仕掛けでもしてあるのかと思ったけどさ、何も無かったね」
「そうね。てっきり何かあるのかと思ってたけど、本当にいつも通りのコースだったね」
「いつも通りって、愛ちゃんはここによく来るの?」
「良くってわけでもないけど、たまに来てるよ。ほら、水辺って何か落ち着くじゃない。リラックスできるって言うか、ここは風も気持ち良いしね。でも、夜に来たのは初めてかも」
「そうなんだ。昼間に来たら気持ち良いってのはわかるかも。僕も小さい時に虫取りしに来たことがあるよ。あの時はクワガタとか一杯取れたんだけど、朱音が虫嫌いで全部逃がしちゃった」
「へえ、朱音ちゃんは虫が嫌いなんだね。でも、虫が好きな女子ってあんまりいないかもね」
「そう言われたそうかもね」
僕は愛ちゃんと二人で歩きながらも幸せはこういうモノなのかもという事を噛みしめていた。始まる前に会長から改めて聞かされた告白で少し動揺していた僕であったけれど、そんな僕を見ても何も変わらない愛ちゃんが隣にいることを思えば、僕は世界一幸せな男なんだろうなと実感することが出来た。
「もう少しで肝試しも終わりだね。最後まで何も無いと思うけど、まー君は何かビックリするようなことがあると思ってた?」
「正直に言うと、会長の性格からいってあんまり人を驚かせるような事はしないと思ってたよ。何か仕掛けを設置するにしても、これだけの人数がいたら難しいと思うしね。どっちかって言うと、肝試しが終わった後に行われる怪談大会の方が怖いんじゃないかな」
「え、待って。そんなのあるって聞いてないけど」
「たぶん、これはオカ研メンバーにしか伝えられてないと思うんだ。参加する人もそんなに多くないと思うんだけど、各自持ち寄ったちょっと怖い話をみんなで聞くってことになってるよ」
「そ、そうなんだ。そう言うのは真美ちゃんが嫌がりそうだから私はどうしようかな。真美ちゃん一人だけ帰すのもかわいそうだし、ちょっと考えないといけないかも」
「真美ちゃんは意外と乗り気だったよ。体験するのは怖いけど、話を聞くのは好きだって言ってたからね」
「真美ちゃんは私と逆か。私はこういうところは平気だと思うんだけど、怖い話を聞くのって苦手なんだよね。自分で確かめることが出来るのはいいんだけどね、話を聞いて想像しちゃうとダメなのよ。なんだかとても怖くなってしまうのよね」
「そうなんだ。でも、僕が隣にいるから平気だよ。怖いことなんて無いからね」
「ありがとう。まー君がそう言ってくれると助かるよ。でも、怖いってのは本当だから、まー君にもっと私の事を守ってほしいな。私の事を思ってくれたらそれだけ守ってもらえるって事だよね」
愛ちゃんは池のほとりにあるベンチに僕の事を見ながらゆっくり座ると手招きして僕を呼んでいた。
愛ちゃんの持っていた提灯型のランタンは足元に置かれていたからか愛ちゃんの顔は暗闇に包まれてハッキリとは見えなかった。でも、少しだけ土で汚れたスニーカーと薄い青色のスカートはハッキリと照らされていた。
僕が近付くと愛ちゃんはゆっくりとスカートを上げて、僕にその中を見せてくれたのだ。
愛ちゃんのランタンはスカートの中を照らすことは無かったのだが、僕のランタンが照らすスカートの中は幻想的とも呼べる景色が広がっていた。
「今日はね、ちょっとだけ大人っぽいのを履いてみたんだ。何となく、夏っぽい気がするんだけど、まー君はどう思う?」
「とても綺麗だと思う。愛ちゃんにはどんなのでも似合うんだね」
愛ちゃんの履いているパンツは濃淡色の紫でところどころ刺繍が施されていた。ランタンの薄明かりと少し距離があるという事でその刺繍が何なのかハッキリと見ることは出来なかったのだが、相変わらず綺麗な太ももが紫色のパンツを引き立たせていた。
もっと近くで見てみたいと思って前に進もうとしたのだが愛ちゃんは急に立ち上がって僕の横に移動してきた。
ここで初めてのキスをするのかと僕は身構えてしまったのだが、愛ちゃんは僕の方を横目で見ると恥ずかしそうな表情を浮かべていた。
「ねえ、次の人達が来てるみたいだよ」
僕は全く気が付かなかったのだが、後ろを歩いている人達が思いのほか近付いていたみたいだった。
悔しい気持ちを抑えながらも僕は愛ちゃんと一緒に進むことにしたのだ。
「あとでちゃんと見せてあげるからね」
虫の声にかき消されそうな小さな声ではあったが、僕は愛ちゃんの言葉を聞き逃すことは無かったのだ。
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