第8話 ダブルデート 愛ちゃん編後編
「会長さんの急用ってなんだったんだろうね」
「あんまり慌てている様子はなかったし、もしかしたら僕たちに気を遣ってくれたのかもね」
「そんな感じはするかも。会長さんってちょっと話しただけでもいい人だってわかるもんね。会長さんが先輩じゃなくて同級生だったらいい友達になってるかも」
「僕は逆に同級生だったら仲良くなってないかもな。同い年でこうして普通に話せるのは愛ちゃんしかいないし、女の子と仲良くしてる自分が想像つかないよ」
「そうなのかな。クラスでもまー君は普通に女子と話してると思うけど、あんまり得意じゃ無かったりするの?」
「女子と話すのは苦手だと思うよ。愛ちゃんと付き合ってるから他の女子とも話す機会はあったりするけどさ、愛ちゃんがいなかったら僕は誰ともあんまり話してないと思うな」
「そうなんだ。まー君って誤解されやすいのかもしれないしね。ところで、これから何かして帰る?」
「せっかく駅まで来たんだし、愛ちゃんと初めて学校外で会えてるんだから何かして帰りたいよね。愛ちゃんは何かしてみたいことある?」
僕はこのデートが決まってから色々と計画を建ててはいたのだけれど、そのどれもがあまり現実的なものではなかった。というよりも、僕の多いとは言えないお小遣いでは出来ることは限られてくるし、出来ることならお金は使わないような事をして愛ちゃんを楽しませてあげたいとは思う。でも、僕にはそんな知恵も無いし発想力だって無かったりするのだ。
「じゃあ、私が行ってみたいところがあるんだけど、まー君はソレに付き合ってくれるかな?」
「愛ちゃんの行きたい場所って、どんなところ?」
「漫画喫茶に行ってみたいの。駅からちょっと離れてると思うけど、真美ちゃんから貰った半額券があるからさ、一緒に行ってみない?」
「良いね。僕もしばらく行ってなかったし、せっかく半額券をもらったんだったら行ってみようか。愛ちゃんは読みたい漫画とかあるの?」
「うーん、行ってみないとわからないかも。私は普段あんまり漫画を読まないけど、気になる漫画は結構あったりするんだよね」
愛ちゃんが持っている半額券を使える漫画喫茶は一つ隣の駅になるのだが、わざわざ電車に乗らなくても歩いていけるような距離である。電車に乗って行っても少し歩くことになるのでここから歩いていってもそんなに漫画喫茶に着く時間も変わらなそうであった。
と言っても、愛ちゃんが歩くのが辛いと言えば電車を使うことにするのだ。でも、愛ちゃんは特にそんなことを言うことも無く、歩くのも意外と好きそうにしていたので僕と愛ちゃんは漫画喫茶までの道のりを楽しく過ごすことが出来た。
会長が一緒にいて邪魔だなと思ったことは無かったのだが、こうして二人だけで楽しめる時間も良いモノだと僕は改めて思っていた。
目的地である漫画喫茶は商業施設の一角にあってなかなか賑わっているように見えるのだが、運の良いことに愛ちゃんと一緒に入れる個室ブースが空いていたのだ。僕と愛ちゃんは迷わずにそのブースを確保したのだが、僕たちの後に入ってきたカップルが個室ブースが埋まっているのを確認すると帰って行ってしまったので間一髪と言ったところだったのだ。
「あの人達も個室を使いたかったのかな?」
「たぶんそうなんだろうね。でも、僕たちの方が早かったからしょうがないよね」
「そうだね。私もまー君と一緒に来てみたかったし、今日じゃなくてもいいかもしれないけど、せっかく初めてのデートなんだから悲しい思い出にしたくなかったもん」
漫画喫茶の個室は僕が想像していたよりも広かった。もっと狭いところで窮屈に漫画を読むのかと思っていたのだけれど、これくらい広いスペースがあるのなら寝ころびながら漫画を読むことも出来そうだ。
僕は愛ちゃんに個室の奥を勧めたのだけれど、愛ちゃんは入り口側の方が落ち着くと言って僕を個室の奥へと誘導してくれたのだ。僕はどっち側でも良かったので気にはしなかったのだけれど、愛ちゃんが手前が良いというのだったら何の迷いもなくそれに従うだけだ。
「思っていたよりもここって広いんだね。もっと狭いかと思ってたよ」
「僕も同じことを思ってたよ。ここだったら横になって仮眠とかも取れそうだね」
「そうかもしれないけど、まー君は私と一緒にいるのに仮眠したいの?」
「そんな事ないよ。例え話だよ、例え話」
「知ってるよ。まー君がそんな事をする人じゃないってね。意地悪しちゃっただけだよ」
愛ちゃんはいつもと変わらない真っすぐな目で僕を見つめているのだが、その瞳には何か固い決意が隠されているように見えた。
「あのね、まー君は会長さんと一緒に乗った観覧車でさ、会長さんのパンツを見たんだよね?」
「見たと言うか、スマホの画面越しに見ちゃったって感じかな」
「スマホ越しだとしても見たって事には変わらないでしょ?」
「そうだね。見たという事には変わりないかも」
「それでね、私はまー君が会長さんのパンツを見たんだったら今日は私のパンツは見なくてもいいのかなって思ったんだけど、まー君は会長さんのパンツを見た後でも私のパンツを見たいって思う?」
「もちろん。僕は誰のパンツよりも愛ちゃんのパンツを見たいって思うよ」
僕は愛ちゃんの質問に対して間を置かずに即答した。他のブースの人達に聞こえない程度に声は押さえたつもりなのだが、気持ちが先走ってしまって思っていたよりも声が大きかったかもしれない。
「もう、そんなに堂々と言わなくてもいいのに。嬉しいけど恥ずかしいよ」
愛ちゃんはそう言って照れてはいるようなのだが、チラチラと僕に見せる表情を見る限りは嫌がってはいないように見えた。
「じゃあ、ちょっとだけだからね。今日は大人っぽいパンツを履いてきたんだけど、まー君に気に入って貰えるかな」
愛ちゃんは恥ずかしそうな表情を僕に見せると、顔を隠すように僕に背を向けて立ち膝になっていた。愛ちゃんはジーンズのフロントボタンを開けたようで、後ろ姿しか見えないのだがジッパーを下ろしている音が無音の個室にかすかに響いていた。
僕はその音を聞きながらつばを飲み込んでしまったのだが、その音もいつも以上に大きく感じてしまい、僕はこのまま黙って見ていても良いのかと不安になってしまった。
「恥ずかしいけど、ちゃんと見ててくれなきゃ嫌だからね」
一瞬だけ僕の顔を見た愛ちゃんと目が合ったのだが、その表情は恥ずかしさの方が勝っているように見えた。
愛ちゃんは確かめるようにゆっくりとジーンズに手をかけると、僕の方に少しだけお尻と突き出して少しずつジーンズを下ろしていった。
ジーンズ越しに突き出された愛ちゃんのお尻は触らなくてもわかりそうなくらい弾力がありそうなプリッとした綺麗な形をしており、その綺麗なお尻を包み込んでいるパンツの色はピンクであった。
会長が履いていたパンツと同系統ではあるが、愛ちゃんの履いているパンツの方が色は薄いような感じがしていた。画面越しと肉眼で見える色が違うだけかもしれないが、愛ちゃんの履いているパンツの方が肌にピッタリマッチした色合いのようにも感じていた。
「変じゃないかな?」
「変じゃないよ。とても綺麗だよ」
「じゃあ、これで満足してくれたかな?」
「満足だけど、もう少し見ていたいかも」
「わがままだな。でも、そうやって正直に言ってくれるならさ、もう少しだけ見せてあげてもいいかも」
愛ちゃんは履いてるジーンズをそのままおろしていき、膝までおろすと恥ずかしそうな表情を浮かべて僕の方を見ていた。
僕はその表情と愛ちゃんの姿を見て得も言われぬ幸せを噛みしめていたのだが、いつまでも愛ちゃんがこの体勢をとってくれるはずも無いと思ってスマホを取り出そうとした。
「写真はダメだよ。見せるのは今だけなんだからね」
僕の行動を予期した愛ちゃんによって作戦は失敗に終わったのだが、それでも僕はその姿をしっかりと目に焼き付けて脳内にインプットしたのだ。
そう言えば、いつもより大人っぽいパンツを履いてくると言っていたような気がするのだが、こうしてみる限りはいつもとそれほど変わりがないようにも思えていた。
僕はその事を愛ちゃんに聞いてみようと思ったのだが、それをどうやって聞けばいいのかさっぱり思いつかなかったのだ。
ただ、黙って愛ちゃんのお尻を見ている僕ではあったが、その沈黙を破るように愛ちゃんは自分から大人っぽいパンツの秘密を教えてくれたのだ。
「このパンツはね、後ろは普通なんだけど、前がちょっと大人っぽいの。でも、恥ずかしいから見ちゃダメだからね」
「そんな風に言われる時になっちゃうよ。見たらダメなのかな?」
「うん、まだ恥ずかしいからさ。見ちゃダメだよ」
「じゃあ、どんなパンツなのか教えてもらってもいい?」
「それも恥ずかしいな。恥ずかしいけどさ、まー君は気になってるみたいだし、教えてあげてもいいかも。でも、見ちゃダメだからね」
愛ちゃんは綺麗なお尻を僕に見せたまま小さく深呼吸をすると、顔を僕に向けてぎりぎり聞き取れるくらいの声量で僕に大人っぽいパンツの事を教えてくれた。
「このパンツはね、前の部分がちょっとだけシースルーになってるの。下の部分は見えないようになってるんだけど、上半分は透けてるのね。でも、そこに小さいリボンがついているから可愛らしさもあるんだよ。どう、どんな感じか想像できた?」
何となく想像は出来ているのだが、そこまで言われると実際にこの目で確かめてみたいという欲求が出てきた。
今なら無理やり確認することも出来ると思うのだが、そんな事をして嫌われるのは本望ではない。出来ることなら嫌われずに確認する方法が無いだろうかと思っていたところ、愛ちゃんの前にある何もついていないモニターにうっすらと愛ちゃんの姿が反射して映っているのだ。ハッキリとはわからないが、何となく全体像は見えているような気がする。
しかも、愛ちゃんの角度からはそれがわからないようで、愛ちゃんから見える僕は恥ずかしくて視線を外しているようにしか見えないだろう。愛ちゃんがモニターの秘密に気が付く前にこんな風に見るのはやめた方が良いと思うのだが、目の前のモニターにうっすらと映し出されている姿をハッキリと確認するまではやめられないと思う。
「やっぱり恥ずかしい。今日はここまでにしておくから」
脱ぐ時とは違ってジーンズを履くのは一瞬なんだなと思っていたのだけれど、僕は愛ちゃんに嫌われずに済んだようだ。
「まー君は変な事しないって信じてたけど、やっぱり私の思っていた通りで変な事はしなかったね。信用してて良かったよ」
ジーンズをちゃんと履いた愛ちゃんは僕の隣に来てそう言うと、持ってきていたジュースを一口飲んでいた。
僕が緊張していたように愛ちゃんも緊張していたのだと思うのだが、僕以上に愛ちゃんはドキドキしていたんだろうなと思っていた。
僕も持ってきたジュースを飲んでいたのだが、何となく見た愛ちゃんのジーンズのジッパーが少し開いているような気がして仕方なかった。これを指摘するべきなのか、指摘しない方が良いのか、とても迷うところではあったが、愛ちゃんが飲み物を取りに行くときに立ち膝になってジッパーを上げているようなそぶりが見えたのだが、それにも僕は気付かなかったふりをしていた。
それが正しいのかわからないが、僕は結局愛ちゃんのパンツの全貌を拝むことは出来なかったのである。
大人っぽいパンツの秘密はいつの日かに持ち越しになってしまったのであった。
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