第7話 ダブルデート 愛ちゃん編前編
当たり前のような感じで愛ちゃんに手を引かれて僕は観覧車へと向かったのだが、会長は僕らに向かって優しく手を振ってくれていた。僕はそれに応えたりはしていなかったのだけれど、さすがにゴンドラに乗り込んだ時には手を振り返していた。
「会長さんとのデートは楽しかった?」
僕は愛ちゃんのその問いかけに即答することが出来なかったのだが、愛ちゃんはそんな事で怒ったりせずに僕をただじっと見つめていた。何も言わずに見ているだけなので怒っているのかなと思ってしまったのだが、僕に見せてくれる笑顔はいつもと同じで何か裏があるようには見えなかった。
「十二分間のデートは楽しかったかな?」
「どうだろう。会長とは部活の時に二人で過ごすことも多かったからあんまり普段と変わらなかったかも。部室よりもここは狭かったけど、こうして正面に座っていると意外と距離があるから部室よりも離れて座ってたと思うしな」
「そうなんだ。でもさ、まー君は会長さんと密室で二人っきりになってたんだよ。普段と違うところは何も無かったって事なのかな?」
僕はその質問を聞いて再び答えるのに間が出来てしまった。相変わらず愛ちゃんは僕に対して笑顔を見せてくれているのだけれど、その笑顔の奥には僕の事を見透かしているような雰囲気も感じられてしまい、僕は会長と二人で何をしていたかという事を説明してしまった。もちろん、嘘なんてつかずに正直に全てありのまま起こった出来事を伝えたのだ。
僕の言葉を最後まで聞いてくれた愛ちゃんは深くため息をつくと、先程と同じような笑顔を僕に見せてくれたのだ。
「良かった。まー君が隠し事をするような人じゃないくて。会長さんがまー君に写真を撮ってもらう予定だったってのはさっき一緒に乗った時に聞いてたんだよ。この観覧車で変な写真が撮れるかもしれないって噂を聞いていたからね。オカルト研究会の会長ならそんな噂を確かめたくなるんじゃないかなって思ってさ、会長さんにその噂を教えてあげたんだよ」
「愛ちゃんが会長に教えたのか。観覧車に乗った時から会長はソワソワしてたと思ったんだけど、その噂を確かめたいって思ってたって事なのか。でも、何で愛ちゃんと一緒に乗った時に撮らなかったんだろう?」
「それはね。私がその噂を教えたのは下りる直前だったからだよ。とっくに頂点は通り過ぎていたんだ。私も思い出したのが下りる前だったってのもあるんだけどさ、申し訳ないなって思っちゃったんだよ」
「そうなんだ。でも、終わりかけになって思い出すことってよくあるよね。僕も家に着く直前に忘れ物に気付いた時とか結構あるからね」
「もう少し早く思い出していたらさ、会長さんはまー君と普通に観覧車を楽しめたかもしれないんだよね。でも、思い出したのが遅かったからそれも出来なかったのか」
「僕の考えすぎかもしれないんだけどさ、会長がスカートをめくってたのも愛ちゃんがそう言う風に説明したからなの?」
「うーん、どうだったかな。でも、まー君は私以外の女の子のパンツが見れて嬉しいって思った?」
ここで素直に本当の事を話すべきか。それとも、僕は自分に嘘をついてまで愛ちゃんに喜んでもらえるようなことを言うべきか。どっちにしても良くないとは思うのだけれど、僕は愛ちゃんから向けられている刺さるほどの痛い視線に耐えられそうになかった。
「ちょっとだけ、嬉しかったかも。でも、今まで会長の事を異性として見ていなかったから驚いたって事の方が強かったかな。それでも、画面越しに見た会長のパンツよりも直接見てる愛ちゃんのパンツの方が好きかも」
「ふーん、そうなんだ。まー君も男の子だから女の子のパンツくらい見たいって思うよね。でも、まー君が嘘をついてまで機嫌を取ろうとしなくて良かった。私が好きなまー君はそんな人じゃないって信じてたから、私が信じてる通りのまー君で良かったよ」
僕はいつでも愛ちゃんに対しては誠実でありたいと思っている。告白された時も嘘はつかないで欲しいって言われてたし、僕に出来ることは愛ちゃんに対して嘘をつかない事くらいしか今は無いと思う。
それでも、いつか僕は愛ちゃんの機嫌を取ろうとして嘘をついてしまいそうだなと心の弱さを嘆いていた。嘘を言って嫌われるくらいだったら本当のことを言って嫌われた方が良いのかもしれない。そんな風に思ったりもするのだけれど、本音を言えば嫌われたくなんてないのだ。
「でも、会長さんのパンツを見たんだったら今日は私のパンツは見せられないかな」
「そうなの?」
「そうだよ。だって、私のパンツよりも先に会長さんのパンツを見ちゃったんだし、今更私のパンツを見たって何も思わないんじゃない?」
「そんな事ないよ。僕はいつだって愛ちゃんのを見たいよ」
「私の何を見たいの?」
「その、いつも見せてくれるやつを」
「私がいつも見せてるって、この笑顔の事かな?」
愛ちゃんは今までと同じような笑顔を見せてくれているとは思うのだけれど、僕が少し弱気になっているせいかいつもよりも口角が上がっていないように見えた。
ここでも嘘をつかずに正直に言うべきか。それとも、何も言わずに流してもらうべきか。観覧車もいつの間にか頂点を越えてあとは下がるだけになっていたが、このまま残りの時間を無言で過ごすという事は僕には耐えられそうにもなかった。
「僕は愛ちゃんの笑顔も好きだよ。でも、今日の愛ちゃんのパンツも見てみたい」
「そっか。私のパンツを見たいのか。でも、今日はスカートじゃないからすぐに見せることは出来ないな。せっかく大人っぽいパンツを履いてきたんだけどさ、それもまー君には見てもらえないのか。残念だなぁ」
いつもとは違う大人っぽいパンツを見てみたい。そんな事を僕は心の底から思っていたのだが、観覧車はもう間もなく終着点へとたどり着いてしまう。今から頼んだとしても他の人からも見えてしまいそうだし、何よりもその状態で降りることになってしまいそうだ。
僕は愛ちゃんのパンツを見たいとは思うけれど、愛ちゃんのパンツを他の人にまで見られたくはないのだ。とっても可愛くて綺麗で素敵な女の子の愛ちゃんのパンツを他の人になって見せたくない。僕はそう思っている。
「残念だけど今日は諦めるよ。それに、こうして愛ちゃんと休みの日も一緒にいられるだけでも嬉しいからね。観覧車に一緒に乗れたのもいい思い出になるよ」
「観覧車は私だけじゃなくて会長さんとも一緒に乗ってたと思うけど」
「会長とも一緒に乗ってはいたけどさ、それって恋愛感情のある相手じゃなかったから全然違うと思うんだ。僕は会長に対して恋愛感情を抱いたことは無いし、純粋に先輩として尊敬しているだけだってわかったんだよ。だって、会長のパンツを見た時と愛ちゃんのパンツを見た時ってドキドキが違うように感じたんだもん」
「違うように感じたって、どういうことなの?」
「うまく説明できないけどさ、僕は愛ちゃんのパンツはもっと見ていたいって思ってるんだけど、会長のパンツを見ても早く隠して欲しいって思っちゃってたんだよ」
「そうなんだ。でも、それも嘘じゃないみたいだね。まー君の視線を見てたらソレも嘘じゃないってわかるからね」
僕の視線を見てたらわかるって、どういう事なんだろう。僕は愛ちゃんのパンツを見ている時は他のものが目に入らないくらい凝視していると思うけど、さっき会長がスカートをめくっていた時はベンチに座っている愛ちゃんからは僕たちの様子は見えなかったと思う。もしかしたら、立っていた会長の姿は見えたかもしれないけれど、座ったままの僕の顔は見えないのではないだろうか。僕の位置からは外を見ても愛ちゃんがいた場所は見えなかったし、僕から見えないという事は愛ちゃんからも見えないという事ではないのだろうか。
僕には愛ちゃんが言っていることが理解出来ずにいた。
「まー君は混乱しているみたいだから教えるけど、会長さんにさっき教えてもらったんだ。まー君は会長さんのパンツを凝視はしてなかったって事をね」
僕は観覧車から降りてもずっと愛ちゃんの顔を見ていた。
もしかしたら、少しだけ怒っているように見えたかもしれないけれど、僕はそれでも愛ちゃんの事が好きなので見ていた。
パンツが見れないんだったらパンツよりも好きな愛ちゃんの顔を見てやろうという思いがあったのだが、それはあえて言うまでも無いと思っていて、愛ちゃんの顔を黙っていたのだ。
「おかえりなさい。二人とも嬉しそうな顔してるね。まー君のそんな嬉しそうな顔を見たのは久しぶりな気がするよ」
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