ガラスの向こうに

小狸

0

お母さんと一緒に行った

デパートのショウウィンドウ

白いミュールが煌めいていて

思わず足を止めちゃった


見た瞬間にガラスの中に

ミュールを履いた私がいたよ

くるくる回って笑ってて

何だか楽しそうだった


でも「欲しい」って言わなかったよ

偉いでしょ 我慢したの

気付かれないように

それでもずっと眺めてた


透明なもう一人の自分は

いつだって笑ってるのに

本当の私はどう?

ちゃんと笑えてる?

もうすぐお姉ちゃんになるの

だから我儘言わないよ

そうでしょ?



お母さんとデパートに来て

お店の前を歩いたよ

ずっとドキドキしてたけど

ミュールはまだ残ってた


見た瞬間にガラスの中で

私が不安そうに見えた

そっちの貴方は履けてるじゃない

どうしてそんな顔するの?


今日も「欲しい」って言わなかったよ

お菓子も おもちゃも

あのミュールだって簡単に

諦めちゃえば良いのに


透明なもう一人の自分は

どうして笑えていないのかな

本当の私はこうやって

ちゃんと笑えているのにね

もうすぐお姉ちゃんになるの

だから何にも要らないよ

ほんとに?



ある日のお買い物の時

ショウウィンドウの前を通ったら

ミュールは売れてしまってた

その時ガラスの中には

私はいなくなってた



透明なもう一人の自分は

どこに行ってしまったの

本当の私はこうして

ちゃんとここにいるよね?

もうすぐお姉ちゃんになるの

だけどそれでも

欲しいって言っても良い?


待ってるだけじゃ

手に入らないから



(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガラスの向こうに 小狸 @segen_gen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ