第14話 アッサムの里帰り2
翌朝、馬車に乗る予定だったのが事情聴取を受けなくてはならなくなり一日延期です。
聴取は昼からなのでそれまで仕方無くショッピングです。
本当は必要ないのですが護身の為に剣を買うことにしました。
そこで朝から武器屋巡りです。
できればエクスカリバーとかグラムとかの聖剣を買いたいのですが帝都だからと言って販売されているものではありません。
有れば偽物でしょうし、本物だとしても高額過ぎて購入できないでしょう。
数件ほど武器屋を回った時です、なんと見つけました。
「これ本物?」
「ええ、もちろん本物ですよ。綺麗で格好いいでしょ。現在セール中で10万ゴルド。どうですかお客さん? 今なら鞘もお付けしますよ?」
自信たっぷりに勧めてきます。
その割に剣の性能についての言及はないのですが。
「ファレ止めなよ、それ偽物だよ」
「失礼ですね、お客さん、営業妨害ですか? 他店の回し者ですか? 綺麗な割に辛辣ですね。本物に間違いありません。見てください、ほら剣身に銘が打たれているでしょ?」
「あっ、本当だ! エクスカリバーって銘打たれてる」
これは本物に違いありません、しかもお買い得です。鞘まで付いてます。今なら金もあります。
「いや、偽物だって」
アッサムが煩いです。
しかし、店員さんがアッサムの一言を聞いて横を向き考え始めました。
「だったら、1万でいいよ。もうこれ以上安くできないよ」
な、な、な、なんと聖剣が1万ゴルド、日本円で1万円ほどです。超安いです。
アッサムが
「ほら偽物だよ、だから安くできるんだよ」
と雑音を入れてますが聞こえません、あー聞こえません。
「失礼だな、お客さん。剣士でもないあんたは知らないでしょうが聖剣は人を選ぶんですよ。だから買える人が少ないから安くせざるを得ないんですよ、分かります? この人はね聖剣に選ばれたんですよ。だから安く買えるんですよ」
ナ、ナント、僕は聖剣に選ばれたのです! 僕は特別な人間、だから安く聖剣を買えてしまうのです! ここで買わないと一生聖剣に出会うことはないでしょう! 決めました。
アッサム、本物だから僕は選ばれたんだぞ! そんなことも分からないのか、アッサム、あほだなと言いたいです。
「良し、買った!」
僕は金を支払い意気揚々と武器屋を後にしました。
剣を見たかったのですがもう事情聴取の時間です。
衛兵詰め所で事情聴取を受けました。
僕は終始笑顔でした。
終わると既に辺りは暗くなって来ていたので宿を取りました。
普通の宿です。
でも昨日の安宿よりも安く料金は半額でした。
部屋に入るとお待ちかねの武器拝見です。
鞘から出して武器を見ます。
綺麗です、ピカピカしてます。
てへへ(#^.^#)
少々安っぽい輝きですが聖剣で間違いありません。
剣身に彫ってあります「エスクカリバー」と。
間違いありま‥‥エスク? エスクカリバー? エクスじゃなくて?
orz
確かに本物でした。
エクスカリバーではなくエスクカリバーの本物でした。
シャネルではなくチャンネルのようなものでした。
「ほら、だから言ったでしょ」
アッサムが辛辣に言い放ちます。
前言撤回、あほは僕でした。
でも欲しい物があれば他の人の言うことなど耳に入らないものなのです。
ギャンブラーに『良い事ないから止めなさい』といっても止めるギャンブラーなどいないのと同じです。
でも僕はこの聖剣エスクカリバーを使います。
まぁ、戦いで使うことはないので関係ないのですが、剣士でもありませんし‥‥
「なら買う必要なかったじゃん」
「アッサム煩い! ロマンなの! 男のロマン! 男にはロマンと〇まんが必要なんだよ!」
「何それ? 意味わからないわ」
所詮女に男のロマンは分からないものなのです。
「フン、君のベッドは床ね」
「え~~っ、折角のハネムーンなのにぃ」
「・・・・」
いや、ハネムーンじゃないし。
二の句が継げませんでした。
結局僕は自分が許せず僕が床で寝ました。
背中が痛いですが朝になったので馬車乗り場へ向かいます。
痛めた背中にはただの飾りの聖剣エスクカリバーを背負ってます。
ちょっと涙が‥‥
いえ、そもそも剣士でもないので気にしません。
持ってても使えませんし。
使えもしないのにヤフオクで日本刀買ったと思えば良いのです。
ええ、気にしません。
気にもなりません。
「ファレ、気にし過ぎよ、腐った女みたい」
ちょっと失礼なアッサムです。
そもそも腐った女って何!?
グール?
それともゾンビ?
失礼にも程があります。
今晩はドSなアッサムをドMにしてあげる必要がありそうです。
「ほら、不貞腐れてないで乗るよ! 馬車待ってるよ」
なぜか男前のアッサムです。
腐った女の様な僕と男前のアッサムでちょうど良いのかもしれません。
馬車は恙なくサーガ王国へ進んでいきます。
僕のお尻は問題が再発しています。
初めての長旅、初めての馬車、当然お尻が痛くなってます。
「お尻が痛い。アッサムは痛くないの?」
「私のは肉厚だから大丈夫よ。もっと筋肉つけなさい」
「の、覗いた?」
「・・・・」
なぜだか黙って横を向くアッサムでした。
そろそろ辺りが暗くなってきました。
漸く今日の野営地に到着です。
村で一泊ではなくキャンプです。
ああ、コーヒー飲みたいな。
キャンプと言えばコーヒーですから。
野営地は森を切り開いた少々広いただの空き地です。
通常は数組の馬車がいるとのことでしたが今日は僕たちの馬車だけです。
夕食は乗合馬車が用意した食料の中から選んで購入するシステムです。
硬いパンとソーセージだけの質素な夕餉になりました。
硬いだの、不味いだの、コーヒーが飲みたいだのぐちぐち言う僕と違って文句を一言も言わないアッサムはなぜだか男前でした。
夜は草むらの上に用意されていた布を敷くだけの簡易ベッドに寝ます。
乗合馬車が雇った護衛が一晩中見張りをするのですが偶に護衛の手には負えなくなり逃げることになるかもしれないとのことでした。
安心して眠れません。何のための護衛だろ。
夜中でしょうか明け方近くでしょうか、辺りはまだ暗闇の中、余りの喧騒に目が覚めました。
安心して眠れないと思っていたのですが疲れの所為かぐっすり寝ていたようです。未だぼーっとしてます。
アッサムは僕に抱き着いて寝ています。
「何、もう朝、なんだか煩いわね」
どうやらアッサムも目覚めた模様。
周囲を確認すると囲まれてました。
盗賊?
いえ盗賊ではありません。
軍隊のようです。
なら安心です。
ですが僕たちは一か所に集められました。
偉そうなカイゼル髭の男が一歩前へ進み出ます。
「小生はサーガ王国の子爵アッポンディオ・タリーニである。貴様らは私の奴隷となった。私のために働け。足手まといは殺す」
軍隊が威圧する中を責任感か勇気か御者が質問し始めました。
「あの貴族様が盗賊のようなことをなさっても良いのでしょうか?」
「ははは、小生はサーガ王国から追われている身だ。多くの部下と金が必要である」
カイゼル髭を触るのが癖なのでしょうか。なんだか偉そうです。
いえ貴族なのですから偉いのでしょうけど。
「あの追われているということは元貴族様と言うことでしょうか?」
勇気ある御者が失礼なことを言葉のオブラートに包んで柔らかく発言します。
やはり、軍隊は勇気ある彼にも恐ろしいのでしょう。
「し、失敬な奴だな、貴様は。殺されたいのか? まぁ御者は役に立つから生かしておいてやる。貴族はいつまでも貴族である。貴族とは地位ではなくその出生であり血である」
言ってることは良く分かりませんが要は貴族ではないということですね。
「ぜ、全員奴隷となるのでしょうか?」
恐る恐る御者が尋ねる。
「役に立つ者だけだ、もちろん若い女もな」
そういうと貴族様はアッサムを嘗め回すように見始めました。
とんだエロ貴族です。
「全員金目の物を出せ」
軍隊の一番偉そうな人が用意してあった籠を出し命令します。
順番に金目の物を籠に入れていきます。
渋々ながらも皆さん金目の物入れて行きます。
到頭僕の順番です。
僕も金を入れます。
言うことを聞くのはスキルをあまり知られたくないからです。
だって、情報は力、情報も与えないことも力ですから。
「お前の背中の剣も寄こせ!」
元貴族様が怒鳴ります。
「いえ、これは聖剣エスクカリバーです。渡せません」
「な、なんと! 聖剣エクスカリバーだと! 寄こせ、さぁ、寄こせ!」
軍隊に緊張が走り剣を構え僕を遠巻きに囲みました。
元貴族も寄こせと強気な発言とは裏腹に及び腰です。
ああ、軍隊の皆さんは僕が聖剣を使い皆さんを殲滅する勇者の様な剣士だと思っているのでしょう。僕にはそんな力などはありません。剣士でさえないのですから。
「買いませんか? 100万ゴルドでいいですよ」
相手の腰が引けているので要求が通るかなと思ったんです。
「え、100万ゴルドでいいのか?」
軍隊もざわつきます。
「聖剣が100万ゴルドだと。ま、まぁ、軍隊に囲まれて脅されている状況なら妥当な線か?」
勝手に都合よく解釈してくれてます。
「よし、小生は金が必要だがそれ以上に武器は必要だ。帝国外へ逃げなくてはいけないからな」
どうやら、僕を高名な剣士だと判断した元貴族は余計な争いを避けるためにお金を払う覚悟を決めたようです。
「馬車のみんなも置いていってください!」
ここぞとばかりに命令してみます。
「分かった、聖剣があれば他は良い。隊長、金を出せ」
「はっ」
金が僕に渡されました。
金貨一枚10万ゴルドなので金貨10枚です。
金貨10枚で100万ゴルドです。
「でも、どうして帝国外へ逃げるんです?」
僕の好奇心が勝り尋ねてしまいました。
「帝国貴族の侯爵令嬢でアダルジーザとかいうのを襲ったからな」
アダルジーザ‥‥
何処かで聞いた名前です。
まぁ、気のせいでしょう。
「大変ですね」
「ああ、でもこの聖剣エクスカリバーのお陰で何とかなりそうだ。さぁ、お前ら行くぞ」
元貴族も軍隊も一斉に消えていきました。
しかし、1万ゴルドで買った聖剣モドキが100万ゴルドで売れました。
「ほら、買ってよかっただろ?」
僕はアッサムに胸を張って自慢します。
「ふん」
その割には表情は嬉しそうです。
旅の資金が増えたせいでしょう。
一連の騒ぎの中空が明るくなってきました。
御者の進言で朝食を食べず直ぐに出発することになりました。
僕としても聖剣がモドキだと知られる前に離れたいので御の字です。
それから二日後漸くサーガ王国の首都ザナルに到着したのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます