最弱職を強要されたけど女神様の恩情で生き抜くどこぞの国の王子様の物語
諸行無常
復讐するは我にあり
第1話 フローリストの憂鬱
15歳になるその日も僕、ファレノプシスは花を売っていました。
相変わらずの小間使い、給料は極僅少。
辞めてしまいたいけど辞められないジレンマ。
だけど、僕はこの職業でしか生きられません。
他の職業では失敗するのは火を見るよりも明らかなのです。
僕、ファレが花屋になって以来この店の売り上げが右肩上がりです。
そうです、みんなは愛称でファレと呼びます。
このことからも僕がこの職業に特化しているのが分かります。
僕のスキルのひとつ『栽培』は栽培した薬草に特殊効果を与えるようです。
だからその薬草の売り上げはずっと調子が良いのです。
因みにスキルは他にもあるけど屑ばかりでした。
「ぼーっとするな! しっかり売上上げろ。お前は俺に借金があるんだからな」
何時ものウイードさんの怒声です。
心此処に有らずの僕に励ましの怒声です、有り難いです。
彼がこの店の持ち主です。
ウイードさんが言うように僕はこの店に借金があります。
返済しなければなりません。
だけど店の売り上げが上がっても給料は上がりません。
だから、借金は全く返せてないんです。
一度給料アップについて交渉してみたんです。
「はぁ? 働かせてやってるんだろうが! この店があるからお前の粗末な雑草が売れるんだろうが!」
酷い!
言いたい事は沢山あります。
それにしたって雑草は売らないだろう、と思っても仕方ないです。
僕の薬草の売り上げだけが上がっています。
潰れそうだった店が回復したのは僕のその『雑草』のお陰です。
だと言うのに酷いと思います。
泣きたくなります。
泣きませんが。
いや、言いたいことはありますがここではやめておきます。
す、既に十分文句言っているとか言っているのは誰ですか?
あ、ごめんなさい。
文句は言いません。
実際、働かせてもらっているのですから。
「なぁ、探索やらないか?」
「はひぃ?」
花に水をあげていたら突然赤い髪をしたお客様にそんなことを言われました。
意味が分からず変な声が出ました。
すべての人がそれぞれひとつの職業に特化しているは誰でも知っているはずなのですが。
僕に探索という職業の適正はありません。
「言いたいことは分かる。君の作った薬草から作られるポーションが必要なんだ」
あぁ、ポーションを安く仕入れたい訳ですね。
回復魔法を使える人が少ないこの国の現状では当然回復ポーションや解毒ポーションの需要は高いのです。
その為この店の売り上げが伸びているのです。
僕のお陰だと言っても過言ではありません。
それなのに‥‥
あっ、もう言いません。
パーティーに回復魔法を使える魔術師がいなければ回復ポーション等は必需品です。
その薬草を作れるものがいればポーション代が浮くという訳です。
ポーションは薬草を煮詰めれば誰でも作れますし。
魔力が無くても大丈夫。
薬草事態に魔力が含まれているのですから。
そして『薬剤師』の職業を持つ人がいれば更に高度な回復魔法や様々な薬剤も調剤できますが希少職です。
滅多にお目にかかれません。
「いえ、僕は花屋しか能がないので」
誰にでも一つしか適正職業はないのですが花屋という職業が僕を卑屈にさせてしまいました。
確かに小さいころから探索者は僕の夢だったのです。
しかし、迷惑をかけてしまうかもしれません。
それになにより借金があります。
だから辞められません、ぐすっ。
「そんなに卑屈になるな。花屋も大切な職業だぞ。俺の名前はコーチャ・リプトンだ。まぁ、考えておいてくれ」
そう言い残し彼らは帰って行きました。
5人組の探索者パーティーのようでした。
憧れます。
僕もなりたかったけど、12歳の時の選別の儀で『ふん、お前の適正職業は『フローリスト』だと鼻で笑われながら宣告され諦めました。
あの時の人を小馬鹿にしたような神父のにやけ顔を僕は一生忘れないでしょう。
でもずっと燻り続けていたやけぼっくいに少し火が付いた気がしました。
「おい、辞めるなんて出来ないぞ。お前に貸した金と働かせてやっている恩を忘れるなよ」
バックヤードからウイードさんの怒鳴り声。
どうやら会話を聞かれていたようです。
恩も借金も儲けさせている事で返していってると思うのですけど。
だって僕が来るまでは潰れそうだったのですから。
理由は店主のウイードさんの職業が『雑草』だったからです。
良く分からない職業ですよね。
だからでしょうか、店の売り上げのほとんどが僕の薬草です。
なのに薄給。
なのに借金は一切減っていないのです。
その薄給の中から借金を返すしかありません。
しかし、安い給料では借金が払えません。
払えないと辞められません。
まるで奴隷です。
一生奴隷のように安い給料でこき使うつもりなのでしょうか?
「ここで働きたかったら100万ゴルド持ってこい」
それが、ここで働く条件でした。
僕が10年間毎日働いて返せる額です。
何分薄給ですから。
でも給与の額はどの店も同じようなものだと聞きました。
もちろん店主のウイードさんから聞いた訳ですが。
「なければ借金として働いて返せ」
それが解決策。
子供だった僕はなんて優しい人だと思ってしまいました。
漸く働けるのだと安心した僕はその提案を承諾しここで働き始めたのです。
頑張って100万ゴルド返さなければと、ぐっとこぶしを握り締めました。
当初、給料天引きで5年で支払いは終わるという話でした。
だけど、約束に反し給料はあまりに安く、その上安い給料から返済しろと当初の契約を都合よく改竄したのです。
返済のめどは全く立っていません。
忙しい仕事を終えると漸く帰宅です。
休憩なんかありません。
いえ、必要ありません。
それだけ沢山働かせてもらっているのですから。
嘘ですけど‥‥
「おかえり」
いつものように姉のグロリオサが出迎えてくれます。
愛称で『グロっ!』と呼ぶとなぜだか切れられます。
意味不明です。
両親はいません。
物心ついた時から姉との二人暮らし。
親代わりの姉にはいつも迷惑をかけています。
近所の子供とけんかしてその子の親が怒鳴り込んで来た時も姉は謝ろうとしない僕の代わりに平身低頭謝ってくれたのです。
もう頭が上がりません。
足を向けては寝てますけど‥‥
グロはずっとお金を稼いで料理を作り僕を育ててくれています。
だから、働きだしたからこそ姉に楽をさせてあげたい。
なのに、突然の借金生活です。
トホホです、泣けてきます。
グロはがんばればなんとかなるって言うけど、なるのかな?
今は目途が全く立たない状況だけど頑張るしかありません。
あぁ、肉が食べたいな。
帰宅すると作業着から着替えます。
服を脱いでいるとキッチンから姉の怒鳴り声が聞こえてきます。
「ファレ! その方の痣、絶対に人に見せるんじゃないよ」
姉は痣を見るたびに念を押します。
もう耳にタコができてしまいそうです。
「なんでだよ?」
「それがあると奴隷の印なんだよ。だから奴隷として売られるから絶対に見せたらだめだからな」
えっ、奴隷紋は首だったような気がします。
「それ首じゃないの?」
「無知だね、それだけじゃない。肩にもあるのさ。奴隷が逃げ出して首の文様を消した場合に浮き出るんだ」
「それ、逃亡奴隷じゃないか?」
「あぁ、だから捕まらないように絶対に見せるんじゃないよ」
僕は誰にも見せるものかと心に誓うのでした。
グロの作った料理は粗末だけど美味しい・・・・かったら良かったのだけど。
なぜか料理の腕前は上達しないんです。
「あんた、何か良からぬことを考えてるでしょ!?」
「い、いえ、グロの料理は美味しいなぁ~~って」
「グロって呼ぶなって言ってるでしょ!」
「はい、はい、おねぇたま」
「はいは一回! 信憑性が薄れるから。うそつきは二回言うんだぞ」
もう五月蠅いんだから。
とは言え、姉に文句は言えません。
頼りっぱなしだからです。
嘘です。
殴られるからです。
痛いのは嫌だから文句は言いません、はい。
これだから気の強い女は‥‥
いえ、何でもないです‥‥すいません
無言で睨まないでください。
「美人が睨むと怖いよ?」
「あら良く分かってるじゃない」
恐らく美人のところを肯定したのでしょう。
自意識過剰もほどほどにしていただきたいものです。
「な・に・か?」
そんな一語一語区切って睨まなくっても。
まぁ、仲は良い‥‥のかな?
どうやら姉は人の考えてることが分かるスキルを持っているようです。
でも姉の職業が何なのかなぜか教えてくれません。
それから数日が経った雨の日、先日の探索者達がまた来店したのです。
懲りない人たち‥‥いえ、実は期待してました。
「おっ、がんばってるな? 調子はどうだ? 考えてくれたか?」
気さくな笑顔を向ける赤髪の男、多分リーダーでしょう。
「やりたいのはやまやまだけど事情があるので、お断りします」
「どんな事情だ?」
店主が留守なのをこれ幸いと事情を話してみることにしました。
微かな希望を胸に赤髪のコーチャに賭けてみることにしたのです。
「いや、いや、それで100万ゴルドの借金って、酷い話だ、犯罪だよ。よし、俺が話をつけてやる」
コーチャは任せろとばかりに自分の胸を叩きました。
それはそれはまるで神様のように頼もしく見えました。
暫く談笑しているとにやけ顔の店主ウイードさんが戻って来ました。
少しは仕事をしてほしいものです。
探索者達を見ると嫌な奴らが来たとばかりに顔を顰めます。
「少し話がある」
赤髪のコーチャが怖い顔で店主にそう言います。
少したじろぎたたらを踏んだウイードさん。
パーティー全員でウイードさんを囲むようにして店のバックヤードへ連れて行きました。
僕は一人残されます。
どうなるのでしょう。
上手くいくのでしょうか?
上手くいけば僕は借金がなくなり探索者の仲間入りです。
期待せずにはいられません。
胸ワク展開です。
チリン!
コーチャ達を期待して待っていると入口のベルが鳴ります。
お客様のご来店です。
呼ばれたので接客します。
接客中にバックヤードからウイードさんの怒鳴り声の様な声もたまに聞こえてきます。
上手くいってないのでしょうか?
不安です。
うまく説得してくれれば良いなと期待と不安を混じらせながら店の奥に気を取られお客様の話を聞き流してしまいました。
怒られました、すいません。
漸くお客様もお帰りになった頃ウイードさんがバックヤードから出てきました。
「借金はもういい。お前は首だ。さっさと出ていけ、この恩知らずが!」
今までにないほどの大きな声で僕を怒鳴ります。
上手くいったようです。
喜びで呆けているとウイードさんは僕を蹴り店から追い出しました。
酷い対応だったのですが働かせてもらっていた恩はあります。
僕は店に向かって一礼しありがとうございましたと呟きました。
1年くらい働きました。
13歳から働き始めてもう14歳です。
理不尽なこともありました。
それでも感謝してます。
「よかったな。明日早朝探索者ギルド前集合だ。遅れるなよ」
振り返ると笑顔のコーチャさんがいました。
「はい、了解です。それで、どうやって説得したのですか?」
「秘密だ。聞かない方がいい」
もう借金もありません。
奴隷のように働かされることもありません。
念願だった探索者にもなれます。
裏方だけど。
本当に彼らと一緒に探索できるようになりました。
「あら、早かったわね?」
帰宅すると喜び勇んで店での出来事を姉に報告しました。
姉も喜んでくれました。
漸く姉に楽させることが出来そうです。
これで漸く姉の料理が美味しくなりそうです。
「今晩はお祝いしなくちゃね。腕によりをかけて美味しい料理を作るわよ?」
「えっ? 今晩は外食が‥‥」
キッっと睨まれました。
どうやら逆鱗に触れたようです。
でも姉と楽しく過ごせて幸せです。
その時まで僕は希望に胸を膨らませ起こるはずのない甘い夢を見ていたのだった。
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