夏風のワルツ

紫田 夏来

第1話

 私がここに居る理由はなんだろう。

 私には何もない。バカで、何の能力もない。生きている価値なんてない。

 だって、いらないでしょ?

 大学は優秀な人材を欲しがるし、企業だっておんなじ。進学するにしても、就職するにしても、私のような何もできない奴を合格させるわけがない。私は、いらない人間。私なんか、価値のない人間。

 こうやってぐるぐるぐるぐる考え事をしていると、悲しくなってくる。過去に戻れたらいいのに。


 ピコン!


 スマホが鳴いた。私はゆっくりとベッドから起き上がると、携帯をチェックする。同じクラスの国崎くんからのLINEだった。あの人はバスケ部で運動神経もいいし、何より、先月の校内模試で一位を取ったらしい。

 彼は、文化祭でクラスごとにやる劇の演出を務めることになっている。有能で、明るくて、私とは正反対の人。真っ白でピシっとアイロンがかけられた制服がよく似合っていると、私はいつも思っている。

「前回のホームルームで話した通り、うちのクラスの劇の脚本は手作りしようと思っています。他のクラスとの差別化を図り、集客を増やすことが目的です。脚本のメンバーをなる早で決めたいので、入ってくれる人は、個チャで連絡してください。それと、俺一人で進めていくのは難しいので、補佐を置こうと思います。こちらもなる早で決めたいので、やりたい人は連絡してください。」

 やりたい。でも。

「自信ないなあ……」

 私なんかには無理だ。やめとこう、やめとこう。

 いや、でも!

 もしこれで役に立てたら、私は無能ではないって、証明できるんじゃないかな。演出の補佐って何するんだろう。脚本ってどんなものなんだろう。やりたい人、他にいるかな。

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