第28話 エピローグ 黒い檻の中で

「いやあ、失敗したなぁ。大失敗だ、はっはっは」


 嘘が許されない場所で、「クロ」と名乗った男が、独り呟く。

 

 魔王の討伐が早まったことで、運命は大きく変わる。

 どう変わるのか⋯⋯彼にはある程度理解できた。


 死ぬはずだった父から直接指導を受け、それまで以上の実力を手にし、自分の前に現れる男、「」エリウス。


 同じく、魔王軍の手によって死ぬはずだった両親の愛情を一身に受け、生来持つ優しさ、清らかさに濁りが混ざることなく、若年からそのスキルにふさわしい人物へと成長する、「聖女」レナ。


 そんな二人の成長に引っ張られるように、それまで以上の成長を見せ、世の理から外れる男に目を掛けられることによって、己を高めることになる「槍王」ファラン。


 失われるはずだった、竜信仰の村。

 運命が変化し、古龍から与えられた課題を乗り越えることにより、さらなる力を獲得することになる「真竜眼」のニック。


 そして──。



「うーん。完全に裏目にでちゃったね」


 

 だが、そのことに、一切の後悔はない。


「シロ⋯⋯君はね、ボクのことを少しだけ、勘違いしてるんだ」


 そう。少しだけ。

 確かにクロは、人を欺き、陥れ、争わせるのが好きだ。


 だが、それを乗り越える人の強さを見ること、それはもっと好きだ。


「だからシロ、ある意味で同じなんだよ、キミとボクは」


 人が持つ可能性。

 その限界はどこにあるのか?

 それを見たい。


 シロはその方法として、人に可能性の象徴である「スキル」を自覚させる。

 クロはその方法として、人に乗り越えられる可能性がある「試練」を与える。


 今のままだと、クロは間違いなく負ける。

 そして、それはかつてないほどの、決定的な敗北。


 このままいけば、レナはかつての聖女たちでは届かなかった領域まで、スキルを高める。

 そんなレナから「封印」されてしまえば、その効力はこの世界の終りまで続くだろう。


「あーあ、だから考えないと。諦めちゃ駄目だからね、それを⋯⋯教えてもらったんだから」


 そうだ。

 クロにとってレナと並ぶ仇敵、エリウス。


 彼が今回、教えてくれた。

 最後までやり通すことの大事さを。


「さて、彼を見習って⋯⋯考えないとね、ここから逆転する方法を、さ」



 このままだと、自分は負ける。

 ただ、そんな絶望でさえ、クロにとっては愉悦。


 遠い未来に聞こえる、足音。

 それは彼に敗北を告げる、の足音。


 その音を耳にしながら、嘘が許されないその場所で。

 クロは今日もただひとり、次の一手を考え続ける。

 




──────────────────────


※最終話は次話になります

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