第41話 少なくともここに一人いる
その夜、晩ごはんを食べた波留は、金田一の部屋に飛び込んで、金田一のベッドで大の字になっていた。
「ねえ、金田一」
あおむけで天井を見つめたまま波留は、パソコンに向かっている金田一の背中に声をかける。
「わたし、怪盗やめようかな?」
「へえ、どうして?」
興味なさそうに金田一があいづちを打つ。
「なんかさ、わたし、本来の目的を見失っていた気がするんだ」
「本来の目的? 怪盗するのに、なにか目的ってあったの?」
「おじいちゃんの怪盗術を絶やさないこと。あと、盗むことによって人を救うこと」
金田一はなにもこたえなかった。
だから、波留はつづける。
「それがなんかさ、さいきんは人に褒められたいとか、凄いって言われたいとかが目的で怪盗やっている気がして。ちょっとちがうかな?って思うんだよね。人のためじゃなくて、自分のためにやっている気がする。おじいちゃんがよく言っていたんだ。『盗みは世のため人のため』だって。『盗むことで救われる人もいる』ってさ。でも、いまのわたしは違うかもしれない。そんな気がするんだ」
しばらく沈黙があった。
やがて、金田一がしずかに口を開く。
「ぼくはさ、波留に協力して、いろいろやって、いつも感じてたんだ。まるでぼく自身も怪盗になった気分だってね。ぼくは家から出られない。怖くて一歩も外に出られない臆病者だ。でも、波留に協力しているときは、いっしょに怪盗になって夜の町を飛び回っている気になれた。本当は外になんか出られもしないくせして、想像の世界で怪盗になって、すごい盗みをしている気分になれたんだ」
金田一はちょっとだけ身じろぎし、すこし高い声で続ける。
「ルパ子の盗みで救われた人がいるかどうか、ぼくには分からない。でも、確実にこれだは言える。ルパ子の活躍に協力することで救われた人間が、すくなくともここに一人はいる! それだけは絶対だ!」
ちょっとしーんとなってしまった。
ややあって、波留が口を開く。
「ありがと、金田一。いつもわたしに協力してくれて。何かお礼しなくちゃならないね。なんか欲しいもの、ある?」
「おっぱい揉ませて」
波留はぱっと起き上がると、さっと金田一の背後にちかづき、その頭を、ぐーでボカっと殴った。
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