第12話

高校の入学式に出席して、そのあと、自分の教室に入って、ボクの席に座っていた。

ボクの横の席に、ちっちゃくて、可愛い女の子、座りながら、

「はじめまして、かえです。よろしくねっ!」

って、ボクに、あいさつしてくれた。

「かよちゃん、はじめまして。あやめです。よろしくねっ!」


教室のうしろのほうから、

「かえーーっ!」

って叫ぶ女子の声、聞こえてきて、振り向いたら、めっちゃカッコいい女子だった。

「なにーっ?」

って、ボクの横の席の、かよちゃん、その女子に答えていた。


「かえちゃんなの?」

「香る絵と書いて香絵だよーっ」

「香りといい、絵といい、めっちゃ可愛い名前ですね~」

「あやめちゃんも、女子みたい」

「ありがとう~」

「あっ、そうだ!帰りに、いっしょに、高校の近くの伊勢寺に行ってみない?」

「うんっ、いいよ!」

「あやめちゃん、伊勢寺って知ってる?」

「知らな~い」

「伊勢さんの、お寺よっ!」

「伊勢さんって誰~?」

「百人一首とかの伊勢さんっ!」

「ああ、その伊勢さんなら、なんとなく...」

「伊勢さんの暮らしていた庵、今はお寺になってるの」

「ふ~ん、じゃ、いっしょに行ってみよう!高校入学記念に!」


帰りに香絵ちゃんと高校の近くの伊勢寺に行ってみた。

「中学の卒業式の前日、寝てたら夢に伊勢さん出てきたの」

「ええーっ、伊勢さん、夢に?」

「うんっ、そして、『高校生になったら、女子みたいな子をよろしくねっ』って伊勢さんに言われたの」

「ええーっ、伊勢さんに言われたの?」

「そうなの!あやめちゃん、めっちゃ女の子みたいだから...」


伊勢寺には、伊勢さんの句も書かれてあった。

「伊勢さんの句、うち、めっちゃ好きなの!あやめちゃんは?」

「うん、ボクも、百人一首で、なんとなく、前からずっと、いちばん好きだったかも!」

「そうでしょーっ」

「だから、伊勢さんのこと、百人一首の中でも、いちばん気になってたかも」


晴れてたけど、細かい霧のような雨、パッと降ってきて、一瞬で、すぐやんだ。

風もないのに、あたりの木々の葉っぱとか、サワサワと音をたてて、揺れていた。


香絵ちゃんとボクは、伊勢寺の中で、軽くキスをした。


「伊勢さんに導かれて、うちも、あやめちゃんも、この高校に進学したのかなあ~?」

「ボクの部屋には、ずっと霊、存在してて、中学3年生の間、夜になると、あらわれて、ボクのことを抱きしめてくれてたの」

「ええーっ、ほんと?」

「うん、でも、中学の卒業式の日の夜からは、全く存在感なくなっちゃったの」

「へぇー、不思議」

「どこ行っちゃったのかなあ~。その霊の子の部屋だったのかもしれないのに。ボクの来る前から、ずっと...なんか、そんな気もする」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る