狐火

@kotonoha060315

第1話

狐火


少し寒くなってきた季節の頃。ここは飛騨のド田舎。季節は9月。曼珠沙華の咲く頃。特にすることも無く暇でボーッと縁側で景色を眺めていた。見かねた母が「亜水、昼ごはん作るの手伝ってー。」と声をかけてきた。Twitterを巡回していただけの私には有難い申し出だった。昼ごはんは夏なのに飛騨そばだった。毎年変わらぬ味に少し飽きてきている。


ここでは毎年飛騨古川きつね火祭りが行われる。それは狐の嫁入り行列を表現した、幻想的なお祭りだ。少子高齢化の影響で子供はほとんどおらず、縁日も食べ物の屋台がちらほらあるだけである。しかし、私が見たいのはそこでは無い。その横でやっている中古市だ。昔の掘り出し物が多く、たまにアクセサリーなども売っている。昨年祖母に貰った、鈴と青いリボンがついたイヤリングを着け、今年の中古市に向かった。近くに住んでいるおじさんが、装飾品の叩き売りをしていた。「安いよ安いよ〜今なら100円だよ〜」私の目はある一つのネックレスに止まった。思わずそれを買ってしまった。それは青いフローライトが八面体になっているネックレスだった。私はそれを思わず買ってしまった。18時から花火が上がる。私は神社の近くの石像前に急いだ。やっと石像前に辿り着いた頃、花火は上がった。石像には赤い石がはめ込まれており、私のネックレスとは対称である。そう思ってネックレスを近づけると突然眩い光に包まれた。


ここは…どこ?辺りを見渡しても誰もいないさっきまで花火大会で賑わっていたはずなのに。辺りを見回したが場所は変わっていない。変わっているのは鳥居に生える苔だけだ。明らかにもとの場所と比べると苔が少ない。と、言うことは私は過去にタイムスリップしてしまったようだ。


少しの間呆然としていると、神社の巫女さんが声を掛けてきた。「あの…大丈夫ですか〜?道にでも迷いましたか?」と白い髪の女の子が声を掛けてきた。何故かふわふわの耳としっぽが見えたような気がする。幻覚だろうか。「あの…今は西暦何年ですか?」「今は西暦1952年です。昭和27年ですね。」元いた時代から70年も前に来たらしい。巫女さんは何かを察したように「本殿でお茶でもどうですか?」と言ってきた。私は曖昧に頷いた。巫女さんが私が来る事を知っている気がしたからだ。きっと気のせいだろう。この神社には空狐という狐の神様が祀られている。私がタイムスリップしたのもそのせいなのだろうか。なんて言っている間に本殿に着いた。本殿には有名な地酒の蓬莱が備えられていた。その女の子に私は全てを話した。その後、この神社に務めているならばあの狐巫女伝説の事を聞いてみた。しかし女の子は怪訝そうな顔で、「そんな話聞いた事ないですね〜」と言った。私は驚いた。狐巫女伝説とは昔、村が飢饉に陥った時に舞をして飢饉を救ったという話だ。私はその話を祖母から聞いたのだ。この時代にはまだ狐巫女はいなかったのだろうか?この時代が70年前なら、祖母は10歳ぐらいだろう。


巫女さんから「今年は冷害や雨不足なので、今年はお祭りを豪華に行えません。それに、今日の狐の嫁入りパレードの娘役が突然駆け落ちをしてしまって代わりがいないんです。この村はお年寄りが多いですから。もし良ければ、亜水さんが娘役をやって頂けませんか?」と言われた。最初は断ろうと思ったが、話を聞いてもらったお返しとして受ける事にした。私よりも巫女さんの方が適任だとは思うが、恐らく、神社の物販や受付が忙しいのだろう。


17時頃になり、着付けが始まった。結婚衣装とあり、やはり重い。生地は高い正絹を使っている用で、所々黄ばんでおり長年使っている事がわかる。着付けが終わり、鏡を見る。自分も結婚する時にこんな衣装を着るのだろうか。パレードは写真を撮られながらニコニコするのが大変だったが、無事に終わった。その後着替えて舞殿で狐火という舞を踊る。2、3時間で特訓したものだが、大体形にはなった。音楽が流れ始める。身体が動き出す。もう周りの声は聞こえない。全てを清めるために、自分の為に踊った。一つ一つの動作を行う度に、稲が金色に輝いていった。演目が終了した後、10歳頃の少女が目に入った。誰かに似ていると思った途端、少女はこちらに駆け寄って来て、「わたし、幸子!お姉ちゃんの名前を教えて!私、お姉さんみたいになる!」と言った。私は名前を教えた。「あみお姉ちゃんだね!覚えておくわ!」と、何処かに行ってしまった。私は服を着替え、例の石像まで歩いた。着いた途端、そこには美しい景色が広がっていた。様々な色にグラデーションされた雲。オレンジ色に輝く太陽。今まで起きた様々な事を消化出来てしまうような、美しい夕焼けだった。私は眠くなって、その場で眠ってしまった。


気がつくと、花火大会は終わっていた。元の時代に戻ってきたのだ。私は不思議な気持ちに囚われながら奇妙な満足感に満ちていた。なぜこの宝石が自分をタイムスリップさせたのか分からないが、そんな事はどうでも良くなっていた。家に帰る途中、そういえば祖母の名前が幸子だったと思いながら、家に着いた。白い曼珠沙華が庭に咲き乱れていた。

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