第16話  お姉ちゃんの課外授業

「唯姉。暇だったら、一緒に勉強しない?」


 敦也は唯の部屋に入っていた。


 自分から教えを乞うのは、恥ではあるが、仕方がない。


 唯は、学業成績優秀だからである。


「いいですよ。あっちゃんが、休日に自分から私の部屋に来るなんて、珍しいですから、いっぱい、何でも教えてあげますよ!」


 と、床に二人分勉強ができるくらいのテーブルを置いて、二人並んで座っている。


 そして、唯は敦也にそう言いながら、耳元で囁くのだ。


「————‼」


 さすがの敦也も、耳元で囁かれると顔を赤くなる。


 なんだか、いけない事をしているようで、ドキドキする。


「じゃ、じゃあ、この英語の問題を教えてくれ」


 と、敦也が開いているページの問題を指さす。


「『教えてくれ?』と、それが人に対する頼み方でしょうか?」


 唯は、微笑みながら、敦也の右腕に、わざと胸を当ててくる。


「くっ……」


 ここまで、胸の感触が伝わってくると、理性が保てるのかも怪しい。


(駄目だ。相手は唯姉だぞ。姉ちゃん相手に欲情してはいけない。それこそ、おかしい。我慢だ。ここはグッと堪えろ)


 敦也は、自分の理性と闘いながら、もう一度、唯にお願いする。


「ここの問題を…教えて…ください……」


 敦也が、顔を赤くしたまま言った。


「はい、よく言えました。えらい、えらい」


 と、右手で敦也の頭を撫でる。


「…………」


 もう、これは恥ずかしいを通り越している。


「唯姉、頭、撫でなくていいから教えてください」


「うん、任せて!」


 本来の目的に戻る唯は、問題を読む。


「ここはですね。————っと、この文章の前後を読み解くと、答えはBになります」


 唯は、丁寧に敦也に問題の解き方を教える。


「なるほど……。でも、俺って、英語を日本語に訳するのが苦手なんだよな。単語をどれだけ覚えようとしても、半分以上は忘れているし、日本に住んでいるから、英語より日本語を完璧にマスターした方がいいと、思わない? 唯姉」


「そうね。でも……」


 唯は、敦也の頭を両手で触り、自分の胸に持ってくる。


「将来、日本語だけではダメなんですよ。これからはグローバル化が進んでいるんですから、英語も勉強しないと……」


 唯は、敦也に対して甘すぎる。甘やかしすぎる。


 敦也は、胸に埋め尽くされた顔をはがそうとするが、唯は、グッとホールドしており、離れない。


 このまま、幸せな感触が続いて、窒息死しそうだ。


 だが、唯は少し、力を緩める。


「ぷはぁ!」


 胸から解放された敦也は、深呼吸をする。


「唯姉。こういう事はやめてくれ。俺の気が変わったらどうするんだよ」


 敦也が唯の方を見上げて言う。


「あら、それはそれで構いませんよ。私はいつでもあっちゃんを受け入れる準備は、出来ていますから」


 唯は嬉しそうに言う。


「あはは……」


 敦也は苦笑いをする。


 これを本気で言っているのだから怖い。


 別に唯と何かあったとしても、それは何も問題ない。


 それは戸籍上だけの話であるのだから——


 その後も唯との、二人だけの勉強会は続き、敦也は自分の理性を保ちながら頑張るのであった。

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