わらび餅と麦茶

片葉 彩愛沙

ところてんとバーボン

 彼はいつものように身なりを正して来た。プライベートだし、呼んだのは俺の自宅だし、そんなにきっちりしなくていいのに。

 そう口に出したら、「これしか持ってない」と言う。

「スーツしか持ってないってマジかよ」

「問題ないだろう」

「なくはないかもしれないけど苦しくない?」

「慣れたらこんなものだ」

 ワーカーホリックとはちがう何かの病気だと思う。

 俺はとりあえず麦茶を出した。さっき自販機で買ってきたやつだ。

 そしてわらび餅も添える。

「わらび餅は久々だな」

「俺も」

「こう暑いと、涼しげなものを食べたくなる」

「俺も」

 俺は麦茶を一口、彼はわらび餅を一つ。

 ぶふっと同時に吐き出した。

 俺が飲んだのはバーボンだった。完全に不意打ちだった。

 彼は何を食べたのだろう。

「ところてんじゃないかこれは。ふざけやがって」

 甘味が来ると思ったのに酸っぱいのが来たらそりゃ驚くだろうな。

「ごめんわざとじゃないんだ」

「嘘つけ、こんな間違いがあるか」

「最初あんただってわらびだと思ってたじゃん」

「そういう形だと思ったんだ」

 謝罪と非難の応酬がしばし繰り返されたが、そのうち、俺も彼も青ざめた。

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わらび餅と麦茶 片葉 彩愛沙 @kataha_nerume

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