第19話
僕とマリーの見る劇。
その題目は『遥か古代の女神と男神』であった。
「あぁ……なぜッ!なぜなのだ!?貴様らァ!人類は彼女のことを愛し、彼女もまた君たちのことを愛していたではないかッ!」
ステージの上で男神役の男が……とある一人の女性の亡骸を抱えて泣き叫んでいた。
抱えられているのは死んだふりをしている女神役の女性。
女神……人類並びに全生命を愛した慈愛に満ちた女性。
それは演目の最初のほうに不意打ちで女神役の女性を襲った多くの人類たちの手によって命を絶たれていた。
無残にも。
そこに一切の慈悲はない。誰も殺す必要のない世界で起きた世界初の『殺し』。
ゴミのように捨てられた彼女。
誰もいない地の底で女神の伴侶であった男神は泣く。後悔と怨念……悲しみに。
「あぁ……彼女の魂が、零れ落ちていく……」
男神の、消え入りそうな声。
絶大な力と輝きをもっていた女神の魂がどんどんと美しい女神の肉体から零れ落ちていく。
女神の四肢がどんどんとやせ細り、そして最後には何も残らず灰となってその場に落ちる。
女神の魂より宿し罪が……絶大なまでの力が人類という種全体を包み込む。DNAに刻みこまれる。
「なぜ殺したッ!なぜ!なぜ!!!なぜぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!」
響き渡る男神の絶叫。
……
…………
………………
その絶叫を最後にステージ上には長い沈黙が下りる。長い長い沈黙が。
「あぁ……」
その沈黙を破るようにぽつりと声が漏れる。
「殺してやるとも、くそ人類ども。お前らは今日より世界の敵だ」
ステージ上に映るのは男神役の男の……いや、邪神の覚悟の決まった表情。
「この世界で……邪神と呼ばれる一人の男はこうして誕生したのでした」
その最後のナレーターの言葉で演目は終わる。
人類を悪とし、邪神を正義とする劇……皇帝が現人神として称えられることで、邪神を悪とする宗教、ワイナーレ教が盛んな国家では決してできないであろう演目。
「……」
僕はしばらくの間……男神を演じている人の手に握られている女神役の女性を見つめていた。
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