第31話

 霧の中に包まれた僕とマキナとミリア。


「……ッ、こ、これは……」


「む……」

 

 霧自体が質量を持ち始め……かなりの重さが僕たちにのしかかってくる。

 既にマキナとミリアはきつそうである。


「ほいさ」

 

 僕は両手に持っている刀を握り……勢いよく一振り。

 霧を一瞬で吹き飛ばす。何も残さずに消し飛ばしてみせる。


「「え?」」

 

 霧が消え、黒い影の魔物の全容が……見えて、来る……?

 隠していたものが消えたことによってようやく見えてきた黒い影の魔物なのだった……が、見えてきたその全容はただの黒い影だった。

 霧によって黒い影にしか見えていないのかと思っていたのだが、本当の本当にただの黒い影に過ぎなかった。

 

「あ、あの霧って吹き飛ばせるものだったんだ……」


「僕に吹き飛ばせないものなんてないからね」

 

 僕は驚愕しているミリアの声に対して軽い言葉で返す。


「さて、と……サポートは頼むよ」

 

 黒い影の魔物……一体どんな性質を持っているのか。とりあえずは一発当ててみないと何もわからない。

 僕はゆっくりと歩いて黒い影の魔物へと近づき、刀を一振り。


「……ん?」

 

 軽く振った僕の刀は何の手応えもなくするりと黒い影の魔物をすり抜けていく。

 本当に何の感触もない。ここまで感触がないものを斫ったのは初めてだろう。

 

 ゴゴゴゴゴゴ……。

 

 ダンジョン全体が揺れ、鈍い音を立て始める。


「……ん?」

 

 僕がなんとなくの違和感を覚えたその瞬間。

 突如としてダンジョンの形が変わり、壁や天井、床がまるで意識を持った触手のように僕の方へと迫ってくる。


「ほい」

 

 僕はとりあえず刀を迫ってくるダンジョンの触手へと当てる。

 どうやらこいつはすり抜け式じゃないようでスラリと両断することが出来た。


「良し、と」

 

 僕は迫りくるすべてを切り捨て、マリアとミリアの方へと戻ってくる。


「見た感じ、どう?」

 

 万物を見通す目を持っていると言っても過言じゃないようなミリアへと尋ねる。聞きたいのは黒い影の魔物が一体どんな存在なのかだ。


「おそらくですが……本体の核のようなところが別のところにあるのだと思われます。そして」


「その核は高速に動き回っている、と」


「はい。そういうことでございます」


「なるほどね……面倒な奴だ」

 

 僕はこの黒い魔物の影をどう攻略するか。考えながら僕たちの方へと向かってくる無限に再生し続けるダンジョンの触手を弾き飛ばしていく。

 今はマキナがとりあえず弓矢を乱射しているけど、全然当たる気配がない。……10時間くらいやったらまぐれで当たるかな?

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