2 キツくても楽しい
「始め!」
部長の美鳥の合図で一斉に始まった、シャトル置き。
水着から練習着に着替えた私たちは、キュキュッと靴底の音を体育館へと響かせる。
練習方法はというと、文字通りシャトルを置くこと。
シャトルを置く場所は何パターンかあるんだけれど、今回のようにコートの……シングルスコート全面を使った練習で説明しよう。
コートを
あ。だから初めは手ぶらで、まずは
まずはコートの中心、ホームポジションからスタートをする。もちろん試合の時と一緒で、動き出しを早くするため腰を落とした状態で始める。
最初はネット際の戦いや前に落ちる時の返球に役立つ、
移動はツーステップかクロスステップ。
私は少し前めにいたから、ツーステップで間に合いそう。ホームポジションから右斜めにあるサイドラインへと向けて右足を出して、それに続くように左足を引き付けていく。
ちなみにこの時、左足は進行方向につま先が向いている右足の踵と直角になるような配置。
その後はまた右足を斜め前に出して、置いておいたシャトルの5個の内の1つを拾って、ホームポジションに戻るのだ。
シャトルがある
ということで、次は
私は勢いを殺さないようにリアクションステップ。その時に左足を踏み込んで床を蹴って、右に腰を回転させる。そして右足をシャトルを置く左斜めにあるサイドラインへと出して飛び込む。よし、置けた。
次に真ん中部分……
サイドラインへ持っていたシャトルを置いて、再びホームポジションに戻る。
今度は左後ろ……バック奥へ。今やった二か所よりも少し距離があるため、クロスステップを使う。
だけれどまずは
拾う。戻る。さぁリアクションステップをして、リズムを崩さずに行こう。タラタラやったって練習にならない。スピードも意識して行こう。そしたらクロスステップだ。
シャトルを置く斜め後ろのサイドラインへと向けて左足を出して、右足を前で交差して、左足を出してとサイドステップ。
右に腰を回転させる。そしてまた右足をシャトルを置く左斜めにあるサイドラインへと出す。
よし、左側は終わった。ホームポジションに戻って、右側も置くぞ。
こんな風に返球の足さばきや歩数、そして動作を身体に叩き込むことが出来てしまうのがシャトル置きなのだ。
つまり、試合をしているとコートの中のあらゆる場所に相手からのショットが沈むから、その対策になるというわけである。
その上このシャトル置きは足腰までも鍛えられるし、とてもメリットの多い練習だったりする。
だけれど、このシャトル置き……
「「きっつ!」」
全てのシャトルを同時に置き終わった花林と茉鈴が、息を合わせてそう天を仰ぐ。
どこまでも双子のようだ。
「ふふーんですの! お二人とも遅くてですの! このワタクシが一番早いですの!」
やった! 私この二人に追い付けた! って喜んだのに、凜々果ってばそんなこと言わないでよー。
でも凜々果すごいなぁ。脚力はピカイチだ。
「ぜぇぜぇ……こほん。何を仰っているのですか、凜々果さん? 私、凜々果さんの隣だから見ていましたが、スピードばかりでやり方は全然出来ていませんでした」
最後に置き終わった美鳥が、ズレた眼鏡をくい上げして言う。
「美鳥さんったら負け惜しみですの! 見苦しいですの!」
「いいですか凜々果さん? 背中を丸めた沈め方だと腰を痛めます。それにシャトルを早く運ぶことばかりを考えて、あちらのコートに対戦相手がいるって意識していましたか?」
「な……ぎゃふんですの! あやみんちゃ~ん! 美鳥さんがいじめて来ますの~!」
「ぷぎゃ」
シャトル
するとやっぱり花林と茉鈴のお出ましだ。もー、私の声真似と顔真似をしてきて冷やかすの
「おー! みんな頑張ってんなー!」
「先生! って、何その格好!?」
遅れてやって来た片寄先生の場違いな服装に、私は目を白黒させてしまう。
「アロハシャツじゃん! いーねー可愛い! ね、茉鈴?」
「うん! 普段のもっさいジャージより似合うよ!」
「だろ? 先生思い切って買ってみたんだ」
片寄先生は茉鈴にディスられるも、全然気が付いていないようだ。
というか、なんか浮足立っている感じだし、気にしてないのかも?
「もー先生、今私たちは練習中なんですから邪魔をしないでください」
息を整え切ったご様子の美鳥は、スンっとした表情で眼鏡をくい上げしながら言う。
「そんなこと言うなよぉ、二葉~。先生だってお前たちとの合宿を楽しみに……じゃなくて、顧問として監督しに来たんだからな~?」
「本音がポロリですの!」
誰よりも早く凜々果がツッコミをすると、みんなが笑う。あ。一人を除いて。
「もー! みなさんったら、まだ練習は終わっていませんよっ? 次はシャトルランダッシュです!」
確かに美鳥の言う通り、まだ始まったばかりだ。泊まり込みとは言え今から脱線していたら、みんなで考えた合宿ならではの特別メニューなんてこなせないよ。
「って、凜々果さんはいつまであやみんさんにくっ付いているんですか?」
「くっ付いているのではないですの! あやみんちゃんがワタクシを離してくれないんですの♡」
えぇー? なんでそうなる?
「もうそういうのいいですから」と美鳥は怒り、私を挟んで凜々果も怒る。
花林と茉鈴は片寄先生に絡んでいるし、セバスはまた乗り込んで来るし……。
でも私は、そんな煩雑な環境の中にいて、心の底から思ったんだ。
「なんか、すっごい頑張れそう! 楽しい……!」
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