3 接触
そして、そろそろ主審から注意が入るかなと思った頃。
画面の中をヒュンっとスワイプするように夢見さんたちが動いた。
それは、なかなかラケットを構えない二人に痺れを切らした花林が、苛立ちをぶつけるように自分のふくらはぎをガットで叩いたからだった。
「花林さんったら可哀想ですわ」
私に膝枕をされている凜々果が、そう言ってやれやれと同情した。
まぁラケットのガットやフレームで、自分の足とかシューズを叩く足パン(今名付けた)は、バドを続けていれば割と目にする行為だよね。自分に対してだったり、ペアに向けてだったりさ……?
「ええそうですね。私も今のような威嚇は良くないと思いました」
「はいはい、うるせぇうるせぇ。いいから黙ってもろてぇ、ここからが面白いんよっ。ね、茉鈴?」
「んねんね」
そうなんだ。
私は花林と茉鈴の第1ダブルスと同時進行で、隣りのコートで美鳥とペアを組んで第2ダブルスをしていたし、見せてもらったスコア表からは試合の詳しい内容までは分からない。だからそんな風な言い方をされると、ね? 妙に興味を引かれてしまうのである。
視点を画面の中のコートへ戻すと、葉菜見さんがラケットを構えたことを確認した花林が、仕切り直してサーブのサインを茉鈴へ送ったところだった。
これまでと同じショートサーブ。動揺もあってなのか、サーブを受ける葉菜見さんはワンテンポ反応が遅れたよう。
カツンと高い音が鳴った。
葉菜見さんのレシーブは、ラケットのフレームに当たって意図せずにシャトルがネットに掛かって落ちた。
いわゆるフレームショット。正直これを、私は取れる自信がない。
取れてもネットに阻まれるか、ラケットがネットに触れてしまうタッチ・ザ・ネットか、どちらかのフォルトになるだろう。どのみち相手コートにはシャトルを送れず、ポイントを与えるだけだ。
けれど全国レベルの花林は違った。
いつもと変わらない調子でそれに向かって踏み込むと、ラケットを伸ばす。
踏み込んで前重心になると、置かれたラケットの面がまるで腕を使って動かしたようにスライドした。
「クルクルって返りましたわ!」
凜々果の言う通り、ヘアピンがスピンしてネットを超えた。
相手の弥生高側のコートへとシャトルが押し出される。そしてストレートに返ったそれへ、葉菜見さんは対応することが出来ない。
葉菜見さんは前衛を護ると言うよりかは、花林と対角の場所に立っていて、コート左半分を意識していた様子。
いや、もっと言うとフレームショットが入って、尚且つ返ってくるとは思っていなかったが本音だろう。
取ろうという心構えも集中もしていなかった葉菜見さんは、ラリー中だというのに夢見さんに向かって「ごめん」と謝ってしまった。
そうして6点目が連続で入ると、私たちが思った瞬間。
「「見てごらんよ」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます