2 何だこいつら
3番コート、第1ダブルス。弥生高は三年生と二年生からなる、
神無月高のように高校からバドを始めた人なのか、県外から来た人たちなのか、私の見知った顔ではなかった。
姉妹と聞くと、連係の取れたプレイスタイルを想像する。なら、こちらのペアと相似しているのかもしれない。
「「ストップー」」
向かって右側のコート。茉鈴と掛け声を揃えた花林へサーブが放たれる。
シード校と言えど、花林・茉鈴ペアが相手。しかも、引退が係る大会でもあるわけで。
コート全体を映す画角からでも、サーブを打つ三年生の夢見さんの緊張が伝わってくる。
「アウト」
「「ラッキー」」
たった一瞬で睦高にサービス権が移り、ポイントが入った。
プレッシャーから来るミスなのは明らか。ソファーに寝転ぶ花林と茉鈴は陽気にイェアなんて言ってハイタッチをしているけれど、コートに立つ二人は特に喜々する様子を見せないで、淡々と次の構えを取った。ひぇ~。
「ナイスー」
「もう1本ー」
花林と茉鈴の低い声が冷たく響いた。
打てば得点を決めていく二人。ぽんぽん、ぽんぽん、面白いようにシャトルが弥生高のコートへと沈んでいく。しぇ~。
「ちょっと、おねぇ!」
花林と茉鈴が連続で5点目を取った時だった。ショートボブというより、おかっぱと形容したくなる前髪ぱっつんの葉菜見さんが、夢見さんの背中を後ろから
「何よ? 今は試合中、集中。今晩の夕食はビーフシチュー?」
「きもいきもい。緊張し過ぎてキャラが変わっちゃってるから」
「シャラララ~。シャラララ~。緊張して何が悪い~? 鳥類~盗塁ぃ~。葉菜見は月並みぃ~」
「悪口言ってる!?」
何だこいつ……って思ったけれど、攻撃に転じられないまま得点されると心が折れるものだ。
今まで重ねて来た試合を振り返り、鬱気になる私の横で、花林と茉鈴がぎゃはははっと笑いながらソファーの上で足をバタつかせる。でも画面の中の二人は、やっぱりクールなのだ。
怖っ。ほ、本当に何だこいつらは……。
「おねぇっ、気をしっかり!」と葉菜見さんが夢見さんの身体を揺さぶると、白目をむく彼女の胸の横で、ギュッと編まれたおさげが大きく左右に振れたのだった。
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