3 越えたい壁

 パン! パン! バンッ、タン……バンッ!


「くっ」

「イン。ポイント11‐9イレブン・ナイン

「ドンマイ綾」


 先制点を取った勢いで連続得点を挙げるも、十夜さんの機転の利いたショットに負かされ、神無月高へインターバルを挟む11点目を許した私たち。

 練習試合で対戦をした時に比べれば、充分に喰らい付くことが出来ているという実感はあるけれど、この調子でがむしゃらにゲームを進めても、なかなか神無月高のリードの壁は越せない気がした。

 ――ただ。


 私はコート脇で顧問のアドバイスを聞いている去月さんを、美鳥と目配せして盗み見た。


 去月さんって、練習試合の時にはいなかった人だよね。しかも右足、ふくらはぎから足首にかけてテーピングをしているってことは、つまり……。


 私は隣へ視野を広げて、去月さんと一緒に十夜さんの姿を映す。


「二人とも呼吸が……息を乱すにはまだ速いですよね?」

「うん……」


 同感だ。耳打ちする美鳥に、私は二人の表情を眺めながら返事をする。


 去月さんって三年生だよね。目を爛々らんらんとさせて先生を見つめて頷いているけれど、足痛いんだ。額の汗すごいもん……。

 それに十夜さん、前に戦った時よりも攻撃的だ。

 きっと去月さんのカバーに入るためなんだろうけれど、それじゃあ……。


「勝算はありそうですね。狙いは去月さんです」

「うん……」

「あやみんさん」

「わかってるよ。勝つために来たんだもん。――それに」


 私はさらに視野を広げた。目で、耳で、胸の奥で感じた。

 この場所に立ちたくても立てない人はいくらでもいる。三年生だろうが関係なくいる。

 だからこそ、妙な詮索せんさくかまけて失点するポカなんて働いたら失礼だ。私たちは甘く見られたわけじゃない。神無月高だって、捨て身で戦ってくれているんだから。


 私は声援に向けて揺らした手のひらを握った。


「あやみんさん……ええその意気です。突いて突いて、それからどんどんラリー戦に持ち込みましょう!」

「うん……そうだね!」


 そうして美鳥と視線を交わした、そのタイミング。花林と茉鈴がやって来た。

 ファーストゲームを取ったらしい。ぎゅんぎゅんと、こっちまで気分が上がってくる。


「いい感じじゃ~ん」

「二人もゲーム取れるよ。イケるイケる♪」


 いつもと変わらない調子で笑って、二人は私たちの背中を軽く叩く。

 そして私たちの返事を背中越しに聞きながら、また颯爽とコートの中へと戻っていったのだった。


「ね、どう?」

「どうって、一体何がですか? 綺麗なボディーラインですけれど?」

「ばか。違うよっ、かりん・まりんの背中みたく凛としているかを訊いたの!」


 私がそう訴えると、小首を傾げていた美鳥は口元に手を当てて、息を吹き出すのをこらえた。


「まぁ、いい感じなのではないですか?」

「ちょ、もう! 去り際ついでに裾を捲らないでったら!」


 慌ててスコートの裾を直す私を、美鳥は愉快げに見つめながら手招きをした。


「さあ、反撃開始ですよ?」

「わかってるって!」


 インターバルが終わり、作戦通り去月さんに配球を集めると早速ポイントが取れた。そして次は同点だと、意気揚々としていた矢先。


「あ……」


 私のショートサーブがネットにはばまれた。


「フォルト。サービスオーバー、ポイント12‐10トゥエルブ・テン


 追い付くどころかサーブミスで失点してしまった。美鳥の視線が背中に刺さって痛い。


「綾、サーブ慎重……」


 うわーんっ、ごめーんってばー!

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