七話 【命の軽い世界!】
ススの森を抜けると、大きな池の近くに煙が見えた。
近づくにつれ、煙の元が見えて来る。
荷馬車が燃えていた。
荷馬車の周りには、数人の男が酒を煽りながら騒いでおり、その足元には3人の死体が横たわっていた。
騒いでいた男達がこちらに気付くと、奇声をあげ走り寄って来る!
ベンゾウの目は、分厚いメガネでも横からわかるほどの冷たい目をしていた。
正直怖かった……
怖かったが、衣服の乱れた若い娘の遺体を目にして、惣一郎も冷たい感情に飲み込まれる。
「ベンゾウ、やれるか?」
四人の男達が光る刃物をちらつかせ、近付いて来ても、オーク一匹程の恐怖も感じなかった。
ベンゾウはコクンと頷き返事をすると姿を消し、一人目の刃物を持った腕を肩から切り落としていた。
吹き出す血を浴びる事もなく、二人目の両足を切り落とすベンゾウ。
素早いベンゾウの動きを離れて見ていた惣一郎でも、捉える事が出来なかった。
遅れて一人目が叫び声を上げる頃には、三人目が握られた剣ごと両手を地面に落とす。
両足を斬られた二人目が転がり、別れた足を目撃すると、四人目の胸から生えた刃物の先端に男は気付く!
惣一郎はすぐに荷馬車に駆け寄り、3人の安否を確かめるが、遅過ぎた……
自分が来たのはこんな世界でもあるんだと、見知らぬ家族だろう横たわる3人を見つめる。
この世界ではこういった場合、どうするのが正解なのか……
ベンゾウに聞く。
盗賊も懸賞金がかけられている者もいるが、大半は知られていない者が多いらしく、その場で魔物の餌になるだけだそうだ。
被害者も身元が分かれば届ける場合もあるが、ほとんどはその場で火にかけ、弔って上げるだけとの事。
遺品などは弔った生きてる物が貰い受け糧にする。
命の軽い世界だった。
惣一郎はネットショップスキルで、リアカーを購入し3人の遺体を乗せる。
キネスの街に行けば、身元がわかるかもしれない。
盗賊は四人目以外は、まだ生きている。
が、直に死ぬだろう。
それまで精一杯、後悔してほしいと願う。
惣一郎は黙ったままリアカーを引き、キネスの街に向かった。
なぜか3人の遺体を乗せる荷車は軽く、舗装もされていない悪路を軽やかに進む。
街に着くと入り口の門番が駆け寄り、驚いた顔でリアカーを物色し始める。
「なんだオイ、いい荷車だな! どこで手に入れた?」
遠い故郷の物と誤魔化し、荷台の3人を見せる。
「盗賊か! だから護衛無しじゃ危険だと止めたんだ……」
顔見知りの様だった。
冒険者カードを見せ事情説明し、遺体を引き渡す。
馬に乗った男がすぐに現場へ確認に向かう。
そう遠くもないので、すぐ戻って来るだろう。
それまでは街に入れず、ここで待つ事になる。
黙って冷たい顔をしていた惣一郎は、ベンゾウが心配しているのに気付き、助けてもらった礼を言って笑顔を作る。
事前にネットで買った菓子パンを、マジックバッグに入れていたのを思い出し、ベンゾウに渡す。
美味そうに食べるベンゾウを、門番達が羨ましそうに見ていた。
しばらくすると馬に乗った男が戻って来て、確認が取れたと伝えて来た。
馬の腰には盗賊の四つの首がぶら下がっていた。
懸賞金も懸けられていたらしい。
後日、冒険者ギルドで懸賞金は受け取れるそうで、キネスの街に入る頃には大分陽は傾いていた。
三角屋根の多い街並みに、大きな鐘塔が聳え立つ街。
「まずは宿屋かな?」
酒場が並び、夕方から賑わっている場所でベンゾウが「宿屋ありました!」っと、酒場の一つに入っていく。
酒場と宿屋が一緒のスタイルの様だ。
受付を済まし部屋に入ると、すぐベッドに横になる惣一郎。
「疲れたな〜」
ベンゾウが一生懸命「ご主人様は良いことをした!」とか「凄い」を連発して褒めて来る。
子供に気を遣わせてるな……
そんなベンゾウの声が子守唄の様に、そのまま眠りにつく惣一郎。
翌朝、大きな鐘の音で飛び起きる惣一郎。
やはり抱きついて寝ているベンゾウを起こし、まずは冒険者ギルドに魔獣を売りにいく事にした。
宿で朝食を済ませるとギルドの場所を聞き、街へと出るふたり。
大きな鐘塔が冒険者ギルドだった。
ギルドに着くと、やはり柄の悪い冒険者が朝から集まっていた。
ベンゾウの強さを知ると強面の冒険者も、さほど怖くはなかった。
受付でカードを見せ買取を頼むと、すでに盗賊の話も届いていたらしく、一緒に受け取れる事になる。
イノシシと狼5頭をマジックバッグから取り出した様に見せかけて、アイテムボックスから出す。
最後にオークの耳を出すと、受付が驚いていた。
懸賞金も含め買取金額は76ギーと4ネル。
いい収入になった。
ほんと冒険者でもやって行けそうだ。
ついでに、ベンゾウの冒険者再登録と思ったが、奴隷は武器扱いとの事で登録は出来なかった。
冒険者に未練が無いのか、気にもしないベンゾウさん。
ギルドを出て当初の目的である、魔導書店に向かい始める。
近いとの事で、居ても立っても居られなかった。
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