デスゲーム

そういち

プロローグ

ある日、俺と妹のエレナは両親から捨てられた。

父親の会社の経営が傾いたからなのか、母親が育児に疲れたからなのか、まだ11歳の俺には理解できなかった。

行くあてもなく、途方に暮れていた俺たちの前に一人の男が現れた。

男は黒光りしたスーツを着ており、腕には銀色の時計をつけている。

身なりから察するに、金持ちなのだろう。

男は俺たちに向かって優しくこう言った。

「心細かっただろう?でも、もう大丈夫だよ。

君たちの面倒はおじさんが見てあげるからね。さぁ車に乗ろうか。」

俺たちは男に言われるがまま車に乗り込んだ。車の座席はフカフカで乗り心地が良かったが、今はそんなことを楽しんでいる余裕はない。

──ガタンゴトンと、かれこれ数時間は車に揺られただろうか。車内ではこれといった会話もなく気まずい時間が無限のように感じられた。

隣に座っているエレナもグッタリとしている。

「さぁ、着いたよ。」

ようやくこの空間から開放される、そう思いながら車から降りると、辺りはすでに暗くなっていた。

男が懐中電灯を点けると、少し先の方に大きな門が見えた。

男が鍵を開けると、ギィィと音を立てて門が開いた。

男はスタスタと門の先へ歩いていく、不安な気持ちで心臓が張り裂けそうだったが、俺たち二人もついて行く他なかった。

ガサガサと草木をかき分ける音だけが耳に入ってくる。暗くてよく分からないが、ここは森なのだろうか?

しばらく歩くと目の前にポッと明かりのようなものが見えた。

「お疲れ様、今日から君たちはここで一緒に暮らすんだよ。」

男が差し出した手の先を見ると、そこには一棟の館があった。

とても大きな館だったが、壁にはツタが絡まっており、あまり手入れはされていない様子だった。

「入ろうか、他の皆も君たちの到着を待っているよ。」

そう言われ館の中へ入ると、そこには俺たちの他に3人の子供が居た。

男の子が2人、女の子が1人、皆一様に目の奥が曇っている。

あぁ、この子たちも親から捨てられたのだろうな。

子供ながらに俺はそう悟った。

「これで全員揃ったね、今日から君たちには、この館で一緒に暮らしてもらう。生活に必要な物は全員分揃っているから皆仲良くするように、まずは館内を案内しようか。」

男に先導され、俺たちは廊下を歩いていく。

台所や浴室、更には書庫もあり、男の言うとおり生活に必要な物は一通り揃っていた。

「最後に君たちが過ごす部屋を紹介しよう。」

男はそう言うと鍵の束を取り出して、俺たちに一つづつ部屋の鍵を渡した。

「部屋の大きさは全員同じだし、服や食料も同じ物を用意しているから安心してくれ。」

男はそう言うと一番近くにあった部屋のドアをガチャリと開けた。

部屋の中にはタンスが設置されており、他にも机とベットが置かれていた。

壁には窓もあり、特に不自由なく生活が送れそうなのだが……1つだけ違和感のあるものが存在していた。

──水槽だ。

大人一人が納まるくらいだろうか、とても大きな水槽に水が注がれていた。

「これで一通り館の案内は終わったね。それでは最後に、この館で生活を送る上での大事なルールを説明しよう。」

男は続けてこう言った。

「基本的に館の敷地内では何をしても構わない。だからといって人に暴力を振るったり、台所に用意した包丁で人を刺す。そんなことは絶対にしては駄目だよ、君たちの行動は常に監視しているからね、悪いことをしている子がいればキツイお仕置きが待ってるいるよ。」

含みのある言葉にゾッとしつつも俺たちは引き続き耳を傾ける。

「だけどね、この館では普通やってはいけないことを1つだけルールを守ってやってもいい事になっているんだ。」

男がスッと指を指した、その指の先には先程の水槽が置かれていた。

「君たちの部屋には各一槽づつ水槽が用意されている、そしてこの水槽内の水を使ってのみ──」

「人を殺しても良いこととする。」

俺たちは最初、男の言っていることが理解できなかった。

だが男はハッキリと言ったのだ。

──人を殺しても良い、と。

「期間は決まっていないが、部屋に用意した食料は1ヶ月分だ、皆思考を凝らして相手を殺す方法を考えてくれよ。」

そう言って立ち去ろうとした男は、ふと足を止めてこちらを振り返った。

「そうだ、何のご褒美もないのに人を殺そうだなんて思わないよね。最後まで生き残った子は、お父さん、お母さんのいる家に帰してあげよう。」

男はニコりと笑った。

「大丈夫、私はお金持ちだからね。必ず君たちの親のことは説得して見せる。だから安心して殺す方法を考えてくれ。」

──ある日、親から捨てられた俺は男に連れられて、とある館に住むことになった。

そこでは部屋に用意された水槽内の水を使ってのみ人を殺しても良いのだという。

こうして俺の人生はこの日を境に大きく変わっていくことになるのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る