第111話 みんなができることを全力で――!

「清き水乙女にこいねがう。かの者に聖杯の一滴ひとしずくを分け与えたまえ。アクエリアス・ホーリーグレイル!」


 一息ついていると、すぐにリューネが消耗した俺の魔力を回復してくれる。


「リューネ、ありがとな」

「いいえ、私は皆のように戦えません。これくらいしかできませんから」


 自嘲するようにリューネは言うが、


「なに言ってるんだ。魔力回復は本当にすごい魔法だよ。そもそも魔力回復は使い手がほとんどいない上に、リューネは回復効率がハンパなく高い。おかげで俺の魔力も完全回復だ。これでまたSランク魔法がバンバン撃てる」


 ボス戦における縁の下の力持ち、それがリューネの魔力回復なのだ。

 慈雨の姫騎士リューネ・フリージアなくして、この戦いの勝利はあり得ない。


「少しでもユウタさんのお役に立てているなら、嬉しい限りですね」


「そんな謙遜するなってば。マジな話、きっと将来は伝説の姫騎士とか呼ばれているはずだぞ」


「もぅ、持ち上げすぎですよ」


 そう言ったリューネが小さくバランスを崩した。

 俺はすぐにリューネの背中に手を回して、その身体を支えてあげる。


 図らずも抱き合うような形になってしまい、姫騎士の中でも群を抜いて柔らかい感触が俺の身体にぎゅっと押し付けられる。


「大丈夫か?」

「問題ありません。少し立ちくらみしただけですから。ちょっと短時間に魔力回復を使い過ぎたんだと思います」


 少し頬を染めながら、リューネが小さく苦笑した。


 魔力回復は強力だが、使用するにはリューネの魔力を消費する。


 全員が高ランク魔法を連発しているおかげでジラント・ドラゴン相手でも互角の戦いになっているが、リューネの魔力回復も無限じゃない。


 これはあまり時間をかけすぎるとまずいな。

 どこかで勝負に出ないとだ。


「無理するなよ、とはこの状況だから言えないが、なんとか踏ん張ってくれ」

「はい、心得ております」


 俺の腕の中でリューネが力強く頷いた。


「じゃあもう一度行ってくるな」


 俺はリューネの身体を離すと、わずかな休息を終えて、再び前線へと復帰した。

 すぐにアリエッタ、キララと合流する。


 俺が抜けた穴を埋めるように、ジラント・ドラゴンの周囲を飛びながらまとわりついていたルナが、俺が前線に戻ってきたのを見て、


「へへーんだ! スピード勝負ならドラゴンにだって負けないんだからね! 捕まえられるもんなら捕まえてみなさいっての!」


 ジラント・ドラゴンを小馬鹿にするように、目の前から垂直に急降下すると、急転換して股の間の狭いところをギリギリで飛び抜け、


 ブンッ!


 太い尻尾から繰り出されるテイル・スマッシュも難なくかわしながら、逃げるように離脱した。


 ジラント・ドラゴンはそれを追おうとして、だけどすぐに諦めたように動きを止めると、

「グルァァァァァァァァァァッッ!」

 必殺のドラゴンブレスを放つ。


 しかしルナはこれまたヒラリと舞うような空中機動を行うと、背中から迫り来た漆黒のビーム砲撃をあっさりとかわしてみせた。


 ジラント・ドラゴンはどこか呆然としたように、飛び去っていくルナの背中を見送っていた。


 やるな、さすがは舞風の姫騎士だ。


 Sランク魔法が使えないルナは、ダメージを与えるという意味での貢献度は限りなくゼロだ。


 しかし回復ローテの穴を埋めたり、仲間がピンチの時には危険を承知で超接近して注意を引きつけたりと、戦線の維持に奮戦してくれている。


 ドラゴン討伐のために、みんなができることを全力でやってくれている。

 これで負けるわけにはいかないよな!


 よし、あれをやるか!

 俺は勝負に打って出ることを決めた。

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