第85話 鈴カステラ


「これは何?」

 出店回りを始めてすぐに、アリエッタが小さな丸い焼き菓子を指差した。


「これは鈴カステラだな」

「鈴カステラ?」

「文字通り鈴の形をしたカステラだよ。一口サイズで食べやすいのが売りなんだ。すみません、鈴カステラを1皿お願いします」


 アリエッタが興味を示したのを見て、俺の『推しの子を満足させちゃうぞセンサー』が鋭く反応。

 俺はすかさず鈴カステラを注文する。


 ちなみに木のお椀に入れて貰って、お椀は返却しないといけないようだ。

 そこが袋に入れてくれる日本のお祭りとはちょっと違うかな。


「あら、可愛らしい彼女さんね。今日はお祭りデート? 若いっていいわね~。特別に大盛りにしておくわね。うちのはそんじょそこらのとは違う、代々受け継いできた秘伝の鈴カステラだから美味しいわよ?」

「ありが――」


 大盛りサービスをしてくれた店のおばちゃんに、お礼を伝えようとした俺の言葉に被せるようにして、アリエッタがピシャリと言った。


「いいえ、ユータとはそういう関係じゃありません。ただのクラスメイトですから」

「そ、そう……」

 わずかに笑顔をひきつらせたおばちゃんから、俺は鈴カステラを1皿受け取った。


 冷静な物言いによる、ただのクラスメイト発言。

 だがしかしアリエッタ推しの俺は、今のがアリエッタの照れ隠しだと分かっている。

 なので俺がめげることは猫の額ほどもない。


 アリエッタはデレた後であっても、他人から好きだの恋だのからかわれるのが大の苦手なのだ。

 だから自分からデートに誘っておきながら、ついこうやってツンツンしちゃうのだ。

 まったくこの子ったら、恥ずかしがり屋さんで可愛いなぁ!


「さ、食べようぜ」

 俺がニヤニヤを必死で抑えながら、鈴カステラが大盛りに盛られたお椀をアリエッタに差し出すと、


「ねぇユータ。どうしてカステラが鈴の形をしているの?」

 アリエッタがそんなことを聞いてきた。


「え? いや、そんなこと急に聞かれても……名前の由来までは知らないかな」

「ユータも知らないとなると、これはなかなかの難問のようね」


「いつの間に俺は、博士キャラになっていたんだよ?」

「ふふっ、冗談よ。これもユータのおごりなんでしょ? いただくわね」


 俺が持つお椀から、アリエッタが鈴カステラを一つつまむと、お上品に口に入れる。

 アリエッタが飲み込んだのをしっかりと待ってから、俺は感想を尋ねた。


「どうだ?」

「ミルクとハチミツが優しい甘さを醸し出していて、すごく美味しかったわ」

「それは良かった」


「一口サイズだから食べやすいし、見た目も小さくて可愛いし。うん、これはいいものね。もう1つ貰っていい?」


「もちろん。好きなだけ食べてくれ。大盛りにしてもらったしな」

「ありがと。でも見てるだけじゃなくてユータも食べてよね。美味しいわよ」


 笑顔で2つ目を口に入れるアリエッタを見ながら、俺も鈴カステラを一つまみする。


「うん、これは美味しいな」

 鈴カステラは割とどこで食べても美味しいものだが、それでも時々パサパサで甘ったるいだけの『外れ』がある。

 しかしここの鈴カステラは、逆にかなりの『当たり』だった。


「でしょ?」

「外側にまぶされた砂糖のダイレクトな甘さと、内側の生地のしっとりとした甘さが、2段構えで絶妙にシナジーしているよ」


 なるほど。

 アリエッタの言う通り、生地にっすらとミルクとハチミツの風味を感じる。

 それが砂糖だけの単純な甘さとは違った、複雑で奥行きのある甘さを生み出しているんだ。


 おばちゃん、なかなか手の込んだ鈴カステラじゃないか。

 代々受け継いできた秘伝の鈴カステラってのも納得だ。

 ブラボー!

 俺は心の中で、鈴カステラ屋台のおばちゃんに賞賛の拍手を送った。



――――――――――――


(改稿版)レアジョブ【精霊騎士】の俺、突然【勇者パーティ】を追放されたので【へっぽこ幼女魔王さま】とスローライフします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330664559048761

スタートしました~!


古い作品だったのですが、お気に入りだったのと、第11回ネット小説大賞で一次選考を通過できたので、数万字の加筆を加えてリメイクしました。

かなり読みやすくなっていますよ(*'ω'*)b

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