第62話「いつから俺が、神龍剣レクイエムがないと魔法が使えないと錯覚していた?」

「本気ぃ? ヒヒッ、言ってロ! ヒャッハー!」


「頼むから死なないでくれよな。俺は事故であっても、人殺しはしたくないんだ」

「イヒっ――?」


「神龍の牙よ、敵を穿うがて――ペンドラゴン・ファング」


 俺が右手に魔力を込めると、軽く2000発を超える膨大な数の聖光弾が俺の前に現れ、それがすぐさまキララへと殺到した。

 ほぼ全弾を至近距離で直撃したキララは、一瞬で防御加護を失ってガードアウトし、場外まで吹っ飛んでいく。


 キララは闘技場(デュエルスタジアム)全体を覆う巨大な防御加護にぶち当たると、糸の切れたマリオネットのようにボトリと地面に落下した。


「あ……ぐ……そんな……魔法は使えない……はずじゃ……」


 お、良かった。

 口調がいつものキララだ。

 今の衝撃で正気に戻ったみたいだな。


 それと生きてて良かったぁ。

 さすがタフネス自慢の怒りの精霊フラストレだ。

 そのことだけは感謝するよ。


 そして決勝戦に相応しい激しい戦いに、おおいに盛り上がりをみせていた観客席が、一瞬にして静まり返った。


「だから話を聞けって言っただろ?」

「え……?」


「いつから俺が、神龍剣レクイエムがないと魔法が使えないと錯覚していた?」


「だって、おにーさんが……自分で、使えないって……言ったはずで……」

 うつ伏せに倒れながら、必死に顔を上げて俺に言葉を返すキララ。


「それなんだけどさ。勘違いしてるんだよな」

「かん……ちがい……?」


「魔法が使えないってのは、威力が高すぎて下手したら殺してしまうから使えないって意味だ」


「ほえ……?」

 キララの顔が呆気にとられたようにポカーンとなる。


「神龍剣レクイエムの『否定』の概念魔法は、所有者の俺自身にもいくらか作用しているんだ。つまり俺は今まで常に、魔法の威力が抑えられた状態で戦っていたのさ」


「そん、な……だって、あんなに強かった、のに…威力が抑えられて……いた、なんて……」


「悪いが俺は超強いんだ。自慢してるみたいだから、何度も言わせるなよな?」


 俺の全てを注いで育て上げてきたLV99神騎士は、伊達じゃない!


「――っ」

 自信満々で告げた俺の言葉に、キララが絶句した。


「ただ、それがちょうど良かったんだよな。俺は力を抑えてくれるものがないと、Dランク魔法ですらこの威力になっちまうだろ? 姫騎士同士の戦いで、これはちょっと使えないもんな」


 攻撃力があまりに過剰すぎて、冗談抜きで相手を殺してしまう可能性があったから。

 姫騎士は敵でもなんでもなく、共に戦う仲間なんだからな。


 やりすぎは良くない。

 殺りすぎも良くない。


「でも良かったよ。さすがは怒りの精霊フラストレと同化しているだけのことはある。さすがの耐久力だ」


 殺さずに済んで本当に良かった。


「じゃあ……剣がないと魔法が使えないってのは、本当に……」


「ああ、キララたちの完全な思い込みさ。神龍剣レクイエムは『否定』の概念魔法以外にも、基本スペックも高いし本当に便利な武器だが、使い手にデメリットもある。そして俺はそのデメリットを上手く使って、自分の力を適度に抑えていたんだ」


「あはは……すごいやおにーさん、本当に、すごい……」


 その言葉を最後にキララの首がガクッと落ち、微動だにしなくなった。

 それを契機に、衝撃の光景に言葉を失っていたリューネたち回復係が、一斉に集まってきて治療を始める。


 しかしキララは全くの無反応。

 耳元での呼びかけにも応じない。


 ……(滝汗)


 えーと、大丈夫だよな?

 ついに力尽きて死んでしまったわけではなく、気絶のはずだ。


 ……だと思う。多分。きっと。メイビー。

 怒りの精霊フラストレの防御加護の分厚さを、俺は信じているからな?


 ともあれ、これで残すはユリーナだけとなる。


 俺が視線を向けると、向こうの戦いもそろそろ決着の時を迎えようとしていた。

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