第67話 アリエッタ with ツンツン・トゲトゲ・ハリネズミ・アーマー

「なぁアリエッタ。ユリーナも負けてショックだっただろうし、もうちょっと優しくしてあげても良かったんじゃないか?」


 俺はユリーナのメンタルが心配になって、アリエッタの背後から小声でこっそり問いかけた。


「いいのよ。コレくらいでへこたれるようじゃ、名門の姫騎士は務まらないわ」

「スパルタだなぁ。俺なら下手したらショックで引きこもるぞ?」


「ユータはそんな柔なタマじゃないでしょ。あ、もしかして冗談? あんな強さを見せつけておいて、なのにそんなことを言ったら、ちょっと笑えないわよ?」

「冗談じゃないんだけどなぁ」


 この世界に来る前の『本来の俺』――学校カースト最下層――がこんな厳しい挫折を経験したら、間違いなく心が折れている。


「それにほら、ユリーナもすっかり元気になったみたいじゃない。ベストじゃないにしても、これはこれでベターだったのよ」


「……もしかしてわざと憎まれ役を買ってでたのか? ユリーナを元気づけるために」

「まさか。売られたケンカを買っただけよ」


「うん、そっかそっか」

「ちょっとユータ、なにニヤついてるのよ?」


「いや? 別に? ニヤついてなんかいないぞ?」

「滅茶苦茶ニヤついてるでしょ。言っておくけど、私が傷心のユリーナを元気づけようとしたとか、変な勘違いするのはやめてよね。ありえないから」


「うんうん、分かってるって」


 アリエッタがとても優しい子だということを、俺はこの世界の誰よりもよく知っている。

 だけどアリエッタの優しい心は、普段はツンツン・トゲトゲ・ハリネズミ・アーマーによって覆い隠されているのだ。

 つまりはそういうことである。


 まったくもう、可愛い奴だなぁ。

 ふふふ。


「本当に分かってる? 私はユリーナのことなんて全然心配なんてしてないんだからねっ!」

「はいはい、そうだよなー。ユリーナのことなんて、全然心配なんてしてないよなー」


「はいは1回!」

「はーい」

「さっきからその態度、絶対わかってないし!」

「いやいや、俺はアリエッタのことはそれなり以上に分かってるっての」


「ユータが私の何を分かってるって言うのよ?」

「タッグトーナメントでお互い信頼して状況を任せあえるくらいには、分かってるんじゃないかな?」


「まぁ……そうよね」

 アリエッタが納得したようにコクンと頷いた。

 こういうところはとても素直なアリエッタである。


「おーいおまえら。仲がいいのは結構だが、このまま優勝セレモニーをするから、とりあえず整列しろー。イチャつくのはその後にしてくれ」


 と、そこでレベッカ先生から声がかかった。


「レベッカ先生、私とユータはイチャついてなんていません。今のはタッグパートナーとの、ただの一般的な会話です」


「別に深い意味で言ったわけじゃないから、そこはどうでもいいんだが……お前こそカガヤを意識し過ぎじゃないか?」


「ひゃうんっ!?」

 アリエッタがピョコンと小さく飛びあがった。


「そ、そそそんなことありません! 私は決勝戦を振り返ることで、更なる高みに上るためのステップアップとして――」


「ああもう、分かったから早く整列しろ。今日はお偉いさんもいっぱいいるんだ。怒られるだろ、私が。大人が怒られる時は面倒くさいんだ」


「ちょ、ちょっとユータ! レベッカ先生に変な勘違いされちゃったでしょ!」

「え、俺のせい?」

「そうに決まってるでしょ! ほら行くわよ!」


 恥ずかしかったのか、アリエッタの頬は赤く染まり、早口でまくし立てるように言ってくる。


「ま、主賓の俺たちが行かないと始まらないもんな。それではレディ・アリエッタ。エスコート致します」

 俺が冗談半分、もう半分は期待を込めて出した手を、


「あら、ユータのくせに気が利くじゃない」

 アリエッタが躊躇ちゅうちょなく取った。


 俺はアリエッタと手を繋いだまま、既に簡易のセレモニーセットが用意された場所まで歩いて行った。


 決勝戦を戦った俺たち2組4人に加え、3位決定戦を勝ったルナ&ミリアも含めた計3チーム6人に、視察に来ていた王国騎士団・副団長の超エリート姫騎士から、金銀銅のきらびやかなメダルと、精緻な意匠が施されたトロフィーが授与される。


 副団長の隣にはエレナ会長もいて、


「よくやったね、アリエッタ。優勝おめでとう」

 トロフィーを手にしたアリエッタに優しく声をかけた。


「ありがとうございます、お姉さま」


「今日のアリエッタには、私も心の底から驚かされたわ。まさかAランク魔法のライオネル・ストライクを作り替えるだなんて。いつの間にこんなすごいことができるようになったのかしら?」


 エレナ会長に掛け値なしで褒められて、


「えへへ。なんとかして模擬戦でユータに勝ちたくて、魔法式の構成を一から深掘りしていったら、なんとなくできそうな気がしたんです」


 アリエッタの顔がにへらーと、それはもう嬉しそうに崩れる。


 もうめちゃくちゃ嬉しそう。

 例えるなら散歩に連れていってもらう時の子犬のようで、尻尾があったら間違いなく全力でフリフリしているだろう。

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