第20話 一糸まとわぬアリエッタ

「なんか、思った以上にすごく暗いな……」


 俺が住んでいた日本の都市部――街灯の明かりがないところがない――と違って、窓の外は真っ暗に近い。

 遠くからは、ホウホウとフクロウの鳴く声まで聞こえてくる。


 ソシャゲの設定だと、たしかブレイビア学園は王都の外れにあったから、そこまで田舎というわけでもない。


「つまりこれがこの世界の標準ってことだよな。夜はあまり出歩けなさそうだ。ま、学園施設内は魔法照明で明るいからヨシとしよう」


 いつまでも真っ暗な外を見ていても仕方ないので、俺はまだ何もないシンプルな部屋に腰を下ろす。

 壁に背中を預けると、俺は大きく息をはいた。


「まさかこんな漫画やアニメみたいなことが、俺の身に起こるなんてな」


 今この段階になっても、まだ信じられない。

 やっぱり夢でしたと言われても納得してしまう。

 だけどどうやらこれは「現実」のようなのだ。


「しかも強くてニューゲームの上に、俺の推しだったアリエッタと同棲できるなんてな。これもう最高過ぎるだろ」


 ぶっちゃけ、前の世界にたいした未練はない。

 あのまま最悪な高校生活に突入するよりも、推しと同棲を始めた方が圧倒的に素晴らしい。


 なぜこんなことになったのか、その理由くらいは知りたいところではあるが、それを知ったからといって何が変わるわけでもない。


「神様の気まぐれでもなんでも、この状況にはむしろ感謝しかないよ」


 それが今の俺の率直な気持ちだった。


 そんなことを考えていると突然、


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!」


 耳をつんざくようなアリエッタの悲鳴が聞こえてきた。

 推し子の悲鳴を聞いて、俺の身体がすぐさま反応する!


「アリエッタ、どうした!」


 俺は脱兎のごとく部屋を出ると、脱衣所とシャワールームのある所まで走った。


 さっき約束した通りにノックをしようとすると、しかしその寸前に脱衣所のドアが開いて、アリエッタが一糸まとわぬ姿のままで飛び出してくる!


 年齢制限的な問題で、ソシャゲでは到底見ることが叶わなかったその芸術的な光景に、俺は思わず呼吸を止めて息をのんだ。


 アリエッタの裸は大浴場でも見たけど、あの時はアリエッタ本人だとは思っていなかったし、気が動転していてそれどころじゃなかったからな。


 絶対王者のリューネほどではないが、十分に豊かで柔らかそうな胸。

 美しいラインを描いてくびれた腰。

 そこからぐいっと膨む形のいいお尻。

 ピチピチの肌は水滴を力強く弾き、多分に水分を含んだ艶やかな髪が、しっとりと肌に張り付く様子は、もはや神がこの世に与えたまえた奇跡の結晶だ。


 眼福、眼福。

 ありがたや~、ありがたや~。


 俺は脳裏に、心に、そして魂に、その美しい姿を刻み込んだ。


「む、むむむむむむ――」

 アリエッタは裸のまま俺にひっしと抱き着くと、謎の言葉を発した。


「むむむ?? 念仏でも唱えているのか?」


「念仏ってなによ! そうじゃなくて! 虫が! 虫が出たの! なんか足がいっぱいのキモイやつ!」

 アリエッタが涙目になりながら指差したところを見ると、小さなゲジゲジがいた。


「なんだ……」

 特に危険がないことを確認して、俺はほっと一安心した。


「もう! ぼぅっとしてないで、早く取って! お願い! ASAP(可及的速やかに)!」


 涙目のアリエッタに懇願するようにお願いされたので、俺はもちろん最速で行動する。

 俺はアリエッタにギュッとしがみつかれたまま、右手を伸ばしてゲジゲジを軽くつまむと、窓から外へポイっと放り投げた。

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