第21話「妊娠!? 責任!? きゃ~♪ やだ~♪ 進んでる~!」
「もう大丈夫だぞ」
「ほんと? もういない?」
絶対に見たくないという強い意志を示すかのように、俺の胸に深く顔をうずめながら尋ねてくるアリエッタ。
「ああ、もういないよ」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんと」
「嘘だったら許さないから」
「俺はアリエッタに嘘なんてつかないよ」
「良かったぁ……」
アリエッタが心底安心したように、しみじみと呟いた。
しがみついてくる力が大きく緩む。
「あはは、アリエッ――女の子って本当に虫が嫌いだよな」
アリエッタと言いかけて、すぐに女の子と言い直す。
似たようなイベントがソシャゲであったが――年齢制限の関係でアリエッタは裸ではなかった――もちろんそれを知っているのは俺だけだから。
一般論として言うべきだろう。
ちなみに俺も別に虫は好きじゃないけど、ゲジゲジくらいならつまんで捨てることはできる。
さて、これにて一件落着――と思ったんだけど。
「アリエッタ~? 大きな声が聞こえたけどどうしたの? 入るよ?」
キンと小さな音がして、入り口のドアが開き、リューネが334号室へと入って来た。
どうやらリューネの魔力波動も登録されているらしい。
いわゆる合鍵だな。
そうだよな、ソシャゲでも2人は幼馴染みですごく仲良しだもんな。
合鍵くらい渡していても不思議じゃない。
仲良きことはいいことかな――って、のんびり考えている場合じゃない!
「ちょっと待ってくれリューネ。なんでもないから!」
「え~、でも大きな声が聞こえたよ~?」
「本当に何でもないから! おいアリエッタ、お前もそろそろ離れような!」
俺は小声でアリエッタにお願いするが、しかしアリエッタが俺から離れる前にリューネは俺たちのところまでやってきてしまい、
「大声出して何があったの? ――って、あ、うん♪ そういうことね♪ さっきの今で、2人ともやるぅ♪」
全裸で俺にギュッとしがみつき、胸に顔をうずめたままのアリエッタを見て、リューネがにっこりと笑った。
「待つんだリューネ。お前は盛大に勘違いをしている。それを今から俺に説明させて欲しい」
「大丈夫♪ アリエッタとは昔からの幼馴染だし、私は口が堅い女だから♪ エレナ会長にも内緒にしとくね♪」
「だから誤解なんだって――」
「2人の幸せを願ってます♪ きゃーっ♪♪」
俺が説明しようとしても、リューネは心がラブコメ時空に完全に入り込んでしまって、俺の話を全く聞こうとしてくれない。
「2人の幸せって――ひゃうん!?」
俺とリューネのやり取りを聞いて顔を上げたアリエッタは、ようやっと今の状況を理解したのか、それはもう可愛らしい悲鳴を上げた。
「ふふふー♪ 出会ったその日から裸で抱き合うなんて、やるねぇ2人とも♪」
「こ、これは違うのっ! 不可抗力で! って、いつまでくっついてんのよアンタは! この変態! 妊娠したらどうするの!」
俺は顔を真っ赤にしたアリエッタに突き飛ばされて、盛大に尻餅をついた。
「いやいや、これくらいで妊娠はしないから。でももしもの時はちゃんと責任は取るつもりだ」
「妊娠!? 責任!? きゃ~♪ やだ~♪ 進んでるぅ!」
「だからリューネってば、さっきから何を言ってるのよ!」
「はっ!? そうよね、私は余計なことを言わない方がいいよね! ってわけだから、お2人ともごゆっくり~。夜は長いからね♪」
「だからリューネってばぁ!」
「あとこれ、エレナ会長から頼まれたユウタさんの着替え一式でーす。ここに置いておきますねー」
最後に早口でそれだけ言うと、リューネがぴゅーっと部屋から退散した。
「うう~~! アンタのせいでリューネに勘違いされちゃったじゃない!」
尻餅をついた俺の前に立ったアリエッタがビシィッ、と俺に人差し指を突き付けてくる。
「この件、俺はまったく悪くなくね? 元はと言えばアリエッタが抱き着いてきたからだろ?」
「うう~~! そうだけど! そうなんだけど!!」
アリエッタが地団太を踏んだ。
おいこら、ちょっと幼い仕草が、むやみやたらと可愛いぞ。
俺を尊死させるつもりかよ?
「それよりもさ」
「なによ!」
俺はリューネに勘違いされたことなんかよりも、もっと大事なことをアリエッタに告げなければならなかった。
「シャワーの途中だったんだろ? いろいろと隠したほうが、いいと思うぞ?」
その言葉にアリエッタは視線を自分の身体へと向けた。
改めて説明するまでもなく、アリエッタは全裸だった。
そして俺の目の前で仁王立ちしていた。
つまりアリエッタの生まれたままの姿が、ほとんど全て俺の前にさらけ出されていたのである。
「~~っ!! 全部見られたし! もう最悪! いい、全部忘れなさいよ! いいわねユータ!」
顔を真っ赤にしたアリエッタは、そう言い残すと、俺の返事も聞かずに、大切なところを手で隠しながら逃げるように脱衣所へと駆けこみ、ドアをバタンと盛大に閉めたのだった。
「全部忘れろとか無茶言うなよな。全部、魂のメモリーに永久保存だっての」
一人残された俺は、リューネが持ってきてくれた着替えを抱え上げると、小さな声で呟いた。
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