第5話 アンタはちょっと黙っててくれる、この変態!

 よしっ。

 案の定、挑発に乗って来たな。


 初期のアリエッタは若干性格が悪い。


 性格が悪いというか、騎士の名門ローゼンベルク家の才媛としてのプライドが高すぎて、勝ち負けの話になるとすぐにローゼンベルク家が馬鹿にされたと思って、キレて噛みついてくるのだ。


 そのためこんな安い挑発にすら、いとも簡単に乗ってしまう。


 このやや難ありの性格に加えて、途中からのスペックが相対的に低いこともあって、アリエッタはオープンベータからの最初期組の古参ヒロインにも関わらず、他のヒロインと比べてイマイチ人気がなかった。


 ストーリーが進行してデレてくれると、すごく可愛くなるんだけどな。

 まぁなかなかデレてくれないんだけど。

 設定をし忘れてんのかってくらいに、序盤はデレ要素ないんだけど。


 とまぁ序盤の微妙な性格と、そして成長限界が低めに設定されているという性能面での微妙さが知れ渡っているのもあって、なにせ最初にパートナーヒロインに選んでもらえないのがアリエッタだった。


 それはさておき。


「俺は勝つつもりでいるが?」


「大した自信ね。いいわ、もしアンタが勝ったら、そうね。何でも1つだけ言うことを聞いてあげるわ」


「なんでも?」

「ええそうよ。なんでもね」


「そりゃあまた気前がいいんだな? 後で前言撤回をするなよ? ここにいる全員が証人だからな?」


「もちろん」

「これで言質は取ったと」


 よし、計画通り。

 ここでアリエッタに勝って、当面生活できるように取り計らってもらおう。


 なにせアリエッタは姫騎士の名門ローゼンベルク家の娘だ。

 俺の面倒を見るくらい、チョロQを走らせるよりもチョロいはずだ。


「やれやれ、本当に呆れるほどの自信家ね、アンタは。でも、いつまでそう粋がっていられるかしら?」


「俺は事実を言ったまでさ」


「事実ですって? はん! あまり私を見くびらないことね! 泣いて許しを乞わせてあげるから!」


「なら、俺が勝ったら泣いて許しを乞わせてみるか?」

「だからアンタが私に勝てるわけないでしょ!」


 俺が推しの子であるアリエッタとのリアルコミュニケーションを、人生最高に楽しんでいると、


「アリエッタ! なに言ってるの!? 何でもなんてダメだよ!」

 リューネが慌てたように話に入ってきた。


「ちょっとリューネ。なによそれ、まさか私が負けるとでも思ってるの? 失礼しちゃうわね」


「そんなことはないけど……。でも万が一はあるかもだし」

「あはは、万が一なんて、絶対ないから!」


 心配するリューネを、アリエッタが軽く笑い飛ばす。


「じゃあそういうことで決まりな。俺は命をかける代わりに、俺が勝ったらアリエッタは何でも1つ言うことを聞く」


「ええ、いいわよ」


 アリエッタが自信満々に頷いた。


「あのっ、私は回復特化の水魔法の姫騎士なんです。何かあったらすぐに回復しますので。腕や足の1本や2本くらいならくっつけられますから。さすがに首を切られたら、ちょっと厳しいですけど」


 アリエッタを翻意させるのは諦めたのか、リューネが今度は俺に向かって言った。


「ありがとうリューネ。もしもの時は頼むな」

「はい、頼まれました!」


 リューネが脇を締めてこぶしを握った、いわゆる『頑張りますポーズ』をとった。


 それはもう大玉メロンのようにバインバインに大きなリューネのお胸が、両腕で左右から挟まれてさらにバストアップし、ポヨヨンとロックに揺れた。


 男の悲しい本能で、思わず見てしまう俺。


 でかいな。

 うん、でかい。

 まるでそびえたつ山のようだ。


 なぜ山を見てしまうのか?

 ――なぜならそこに山があるからだ。


 さすがは公式プロフィールでB98-W59-H89のJカップと、最もスタイルが良いリューネだ。

 その視覚的な破壊力は、もはやおっぱい界の戦略核兵器だった。


 リアルで見ると本っ当に凄い。


 アリエッタも別に小さくはない――どころか平均よりかなり大きいはずなのだが、リューネと比べるのはさすがに相手が悪すぎた。


「ちょっとリューネ! なんでそんな変態野郎の心配なんてしてるのよ!」

「変態野郎さんだったとしても、ひどい怪我をしたら可哀想だし」


 俺が胸を見ていたとも知らず、心配してくれる優しいリューネである。


「なにが可哀想なのよ。そいつは私のむ、む――胸を触ったのよ!? こう、いやらしくモミモミって! 万死に値するでしょ!」


「別に、いやらしくは揉んでないだろ?」

「ビー・クワイエット!(意訳:アンタはちょっと黙っててくれる、この変態!)」


 黙れと言われたので、俺は素直に黙った。

 ついつい本能に駆られてリューネの胸を見てしまった直後なので、いやらしいかいやらしくないかとう議論について、強く反論しづらい俺だった。

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