第3話 だけど多分、ここはもう日本じゃない。おそらくここは――

「いや、決闘とか言われても……」


 日本では決闘は犯罪だ。

 だけど多分、ここはもう日本じゃない。

 おそらくここは――


「嫌なら拒否してくれて構わないけど?」

「いいのか? なら――」


「だけどその時は、男子禁制の神聖なる王立ブレイビア学園への不法侵入者として、この場で即刻、斬り捨てるから。武具召喚コネクト! ティンカーベル!」


 その言葉とともに、アリエッタの身体に猛々しい赤のラインが入った白銀の鎧が装着された。

 さらには手に1本のレイピアが現れた。


 あれは、『ゴッド・オブ・ブレイビア』の武具召喚コネクト!?


 姫騎士アリエッタ・ローゼンブルクという美少女。

 さらには王立ブレイビア学園や、武具召喚コネクトといった名称。


 もう間違いない。

 ここは『ゴッド・オブ・ブレイビア』のゲームの中だ!


 階段から落ちたと思ったらソシャゲの中に転移していた。

 そんな漫画やアニメみたいなことが、俺の身に起こったってのか?

 はやる気持ちでほっぺたを強くつねってみると、


「痛い……」

 普通に痛かった。


 つまりそういうことで間違いないようだ。

 俺はソシャゲ『ゴッド・オブ・ブレイビア』の中に転移してしまったらしい。


「いきなり頬をつねって、何をやってるのよ? バカなの?」

「夢じゃないかと思って確かめたんだ」


 だってお前、推しの子のアリエッタが俺の目の前にリアルにいるんだぞ?

 推しの子と同じ空間に俺が存在して、同じ空気を吸っているんだぞ?

 あまつさえ話までしちゃってるんだぞ?


 なんだこれ!

 最高かよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!!!!!!!


「夢? 言っている意味がサッパリ分からないわね」

「悪い、こっちの話だから気にしないでくれ」


「まぁいいわ。それでどうするの? 今死ぬか、決闘で死ぬか。あなたに選ばせてあげる」


 アリエッタが優雅な所作で、俺の顔にレイピアの先を向けてくる。


 これがソシャゲ『ゴッド・オブ・ブレイビア』の中だとしたら、決闘は時に互いの命を懸けた、誇りと誇りのぶつかり合いとなる。


 乙女の純真を汚された(と主張する)アリエッタは、本気で俺をボコりにくるだろう。

 何事にも過剰なまでに情熱的なのが、アリエッタという女の子なのだから。

 特に本気で怒った時は、絶対に容赦しない性格をしている。


 ただ、本当に殺しはしないと思う。

 アリエッタは容赦はしないが、決して非道な人間というわけではないから。


 胸を触られたことで命まで奪うことはない……はず、多分、きっと。

 いや、アリエッタはとても初心うぶな性格をしてるから、ありえなくないかも……。


「分かったよ。その決闘、受けて立つよ」

 こう答えなければ、この場で死ぬかもしれない。

 選択肢は他になかった。


「いい心がけね。リューネ、決闘の承認をお願い」

 アリエッタが側にいた青い髪の少女に言った。


 そしてアリエッタ同様に、こっちの女の子も知っている顔だ。


 慈雨の姫騎士リューネ・フリージア。


 穏やかな性格で、いつも厄介ごとに首を突っ込むアリエッタを心配している、アリエッタの一番の親友で。

 優しい性格を体現したかのような、強力な回復魔法を扱う水魔法の使い手だ。


「は、はい! リューネ・フリージアが宣言します! 女神ブレイビアの名のもとに、アリエッタ・ローゼンベルクと、ええっと――」


「ユウタ・カガヤだ」

「ユウタ・カガヤの決闘を承認します!」


「これで決闘は成立よ。もう逃げられないから」

「逃がすつもりなんて、これっぽっちもないくせに」


「ふふん、そうね。さぁ行きましょうか。今なら第3訓練場が空いているだろうから。乙女の純潔を汚された屈辱、死をもってあがなってもらうわよ」


「分かった。でもその前に着替えが欲しい。見ての通りびしょびしょだからさ」


 俺は今、ずぶ濡れになった地元高校の制服を着ている。

 濡れて重くなった制服は、少し動くのも億劫なくらいに邪魔なことこの上ない。


「それなら問題ないわ。我が名のもとに盟約せし炎の精霊サラマンダーよ。その不埒者に快適なる乾きを与えたまえ――ドライヤード!」


 アリエッタの詠唱が終わると、びしょ濡れだった俺の服が一瞬で乾いていく。 


「おおっ、炎魔法の火力を調整して衣類を乾燥させたのか。そう言えばそんな日常イベントがあったなぁ」


 かなり初期の一回こっきりのイベントだったので記憶のかなただったが。

 日常にも戦闘魔法の応用が利くという舞台説明も兼ねたイベントが、そういやあったあった。


「日常イベント? さっきからなに言っているの?」

「悪い、今のもこっちの話だ」


「ふぅん……まぁいいわ。じゃあ訓練場へ行くから、着いてきなさい」


 俺はアリエッタとリューネに前後を挟まれながら――俺が逃げないようにだろう――第3訓練場へと向かった。


 移動の途中で、


(ステータス)


 試しに心の中で呟いてみると、目の前に自分のステータス画面がピコンと開く。


 アリエッタもリューネも何も反応していないところを見ると、このステータス画面は俺だけが見えるようだ。


 試しにアリエッタやリューネのステータスも見えないかと思ったが、こちらは見ることはできなかった。


 まぁそれはいい。

 女の子の秘密を覗き見するのは趣味じゃないし、まずは今の自分のステータスを確認することの方が先決だからな。


 どうか激弱ではありませんように。


 俺ははやる気持ちで早速、自分のステータスを確認してみた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る