第2話 ドボン→ふにょん♪→「ひあんっ!」

 ゴポゴポゴポゴポ……。


(み、水っ!? なんで学校の階段を踏み外したら、下が水なんだよ!? いや温かいからお湯か? って、鼻に水が入って痛ぇっ!? あと息が苦しい! まずはここから出ないと! 話はそれからだ!)


 俺はなんとか水面に出ようとして両手を伸ばしたのだが――、


 ふにょんっ♪

 伸ばした俺の両手は、なにやら柔らかいものを鷲掴みしてしまっていた。


「ひあんっ!」

 同時に可愛らしい声が聞こえてくる。


 ふにょん♪

 ふにょふにょん♪


「あんっ、んっ、ひゃん!」


 いったいなんだ?

 どうやら俺はマシュマロのような柔らかさをもった、メロンのような大きな物を、掴んでしまっているようだ。


 ふにふに♪ ふにょん♪

 やばい、癖になりそうな柔らかさだ。

 このままずっと触っていたいぞ――


「あふんっ♪ らめぇっ……! ――って、いつまで触ってんのよ!」

 ゲシッ!

 強烈なキックが俺のボディに炸裂した。


「ゴハッ!? ゲホッ、ゴホッ! ゲホッ! はぁはぁ……息が、できる……!」


 蹴られたおかげで、俺はやっとこさ水面に顔を出すことに成功する。

 ゼーハーと肩で息をしながら、俺は酸素がある幸せをしみじみと感じた。


「男っ!? なんで男がここにいるのよ!?」

 と、悲鳴のような声があがり、俺はすぐに視線をそちらへと向けた。


「え……? 女の子? って、裸ぁっ!?」


 俺の目の前にとびっきりの美少女がいた。


 燃えるような真紅の髪。

 勝ち気で凛々しい表情。


 見間違えるはずもない。

 それは俺が毎日のように見続けていた『烈火の姫騎士アリエッタ』そのものだった。


 ええっと、コスプレ?

 こんな真っ赤な髪は、黒髪がほとんどの日本じゃまずお目にかかれないもんな。


 そしてアリエッタ似の美少女は、銭湯のようなだだっ広い大浴場につかっていて。

 俺は両手でその胸を鷲掴みしていたのだ。


 つまりここはコスプレしたままお風呂に入る『コスプレ銭湯』かなにかなのだろうか?

 なるほど分からん。


「~~~~~っ!!」


 俺の言葉に、アリエッタ似の美少女が左手で胸を、右手で股間を隠しながら顔を朱に染める。


「ご、ごめん!」

 俺も慌てて、ふにょふにょさせていた両手をひっこめた。


「このっ、大浴場に忍び込むだけでなく、この私のむ、む、胸を! 胸を揉むだなんて!」


 アリエッタ似の美少女がワナワナと肩を震わせる。


 やばい、メチャクチャ怒っている。


 そりゃあ当然だよな。

 入浴中に見ず知らずの男に無断侵入されて、怒らない女の子はいないだろう。


 しかも胸まで揉まれたのだ。

 これで怒らない女の子がいたら見てみたい。

 俺が女の子でも怒る。


 だけど俺も俺で、何が何やら意味不明なんだよ!

 なんで高校の廊下を踏み外したら大浴場にいるんだよ!?

 どう考えてもここ、高校の施設じゃないよな!?

 

「ちょっと待ってくれないか、俺も何が何だか分かってなくてさ。頭を整理したいんだ」

「問答無用! もはやその行い、許し難し! かくなる上は、アンタに決闘を申し込むわ!」


 ビシィッ!

 アリエッタ似の女の子が左腕で胸を隠しながら、俺に向かって右手の人差し指を叩きつけるようにして指差した。


 そのせいで股間が丸見えになってしまったのだが、さすがにそれを指摘できるような空気感ではない。


「決闘……だって?」

「そうよ! アンタ――ええっと、アンタの名前は?」


「加賀谷裕太――いや、名字と名前が逆になるからユータ・カガヤか」


「ユータ・カガヤ? はん! 下劣なスケベ猿に相応しい、実にみすぼらしい名前ね」

「いや、そこまで言われるほどではないと思うんだが……」

「お黙りなさい!」

「あ、はい」


 女の子の剣幕に、俺は一瞬で気圧されて押し黙った。


「余計な会話で話を逸らそうとする魂胆こんたんくらい、全てまるっとお見通しだから」

「余計な話をしてきたのはそっちのような……」


「言い訳なんか聞きたくもないから。ユータ・カガヤ! 私、アリエッタ・ローゼンベルクはアンタに決闘を申し込むわ!」


 いきなり大浴場にドボンしたと思ったら、胸を揉んでしまい、決闘を挑まれる。


 これが俺とアリエッタ・ローゼンベルク――俺の推しの子である『烈火の姫騎士アリエッタ』との、初めてのリアルな出会いだった。

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