届くことなき夕暮れに

エリー.ファー

届くことなき夕暮れに

 この星の片隅で、今日も地球を見つめている。

 気が付けば視界の真ん中には子供たち。

 皆、私のことなど気にしていない。

 それもそのはずだ。

 私がどう思っているかなど、子どもたちにとっては興味の対象外だろう。

 それでいいのだ。

 私の中に子供たちがいて、子どもたちの中に私がいない。

 この寂しさが、哲学を加速させてくれる。綺麗になっていく心には、何の疑いもない。きっと、子どもたちがもつ美しさが私の中にも入りこんでいるということなのだろう。

 いつか、子どもたちは大人になるだろう。

 そして。

 いや。

 この時に生まれた思い出を持って生きていくこともないだろう。

 あぁ、そうか。

 それも勘違いなのか。

 この瞬間は、過去のどこにも生まれないのだ。

 子どもたちにとっては、永遠に続くように感じられる日常であり、私からすれば、それは非日常の中に見えた誰かの奇跡のような日常なのである。重要なことは、二度と生まれない。たった一度だけだからこその輝きの中に見つけるしかない。

 数字が頭の中に落ちてくる。

 引き算だ。

 そして、過去に落とされたチェスの駒の位置だ。

 私は歩いてきてしまった。すべて思い出の中にしかない。私が視界に映しているのは、過去ではない。現在なのである。未来に繋がると思えてしまうほど、希望に溢れている、私の願望なのだ。

 もう、涙が出てくる。

 不審者になってしまう。

 いやいや、気にするべきはそこではないか。こんな場所で子どもたちを見つめて、自分の寿命を削るしか能がない男がいるだけなのだ。不審者というよりも迷子というほかない。

「おじさん」

 誰かの声がした。

 子どもたちの声ではない。

 どこかからか、誰かが私に声をかけている。

「なんだい」

「どこから来たの」

 これは。

 私か。

 私が子どもの時に、今の私と同じように私を見つめていた老人にかけた言葉か。

 それが、今。

 この時間になって、現れている。

 私は一度、大きく咳ばらいをした。失礼なことをしてはならない。早く生まれたくらいで、遅く生まれたくらいで、上だ、下だ、そんなものをもちこんではならない。

 それがいつだって、可能性を狭めてきた事例というものを私たちは知っているではないか。

 私だけの問題ではない。

 すべての命に関わる、切り離せない死と先行による問題である。

「どこから来たと思う」

「えぇと、ねぇ。たぶん、あっちの町から電車に乗って来たと思う」

「君がそう思うなら、それでいいよ」

「ねぇっ、おじさんは電車とか好きだったりするの」

「まぁ、好きかな」

「良いよね、電車って」

「間違いないね。見てもいい、触ってもいい、乗ってもいい。すべて完璧だよ」

「おじさんは、今も好きなの」

「どういう意味だい」

「おじさんは、電車のことをどこまで知ってるの」

「全部、知ってるよ」

「僕よりも知ってるの」

「かもしれない」

「じゃあ、電車クイズを出してもいいよね」

「いいよ」

 私はそこで目を覚ました。

 病院のベッドの上。天井は、少しベージュ色をしていた。何か黒い染みのようなものがあり、顔に見えた。シミュラクラ現象というやつだ。こんな時に、思い浮かぶような頭だから、今現在の状況も理解できないのだろう。

「私の身に何が起きたのですか。私は、何があってここへと運ばれたのですか」

 誰も答えてはくれない。

 しかし。

 心地いい。

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